陽だまりの家

春秋花壇

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春の午後、三女ミクの挑戦

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春の午後、三女ミクの挑戦

サクラは26歳、3人の娘たちと小さなアパートで暮らしている。6歳の長女ハル、4歳の次女ヒナ、そして2歳の三女ミク。夫の死から1年半、サクラは悲しみの中で育児と生活に追われながら、自身のうつ病とも向き合っていた。

今日も、陽の差し込むリビングで、ミクが元気に遊んでいる。柔らかな毛布の上でお気に入りのぬいぐるみを抱きしめている姿を見ていると、サクラの胸にはほのかな安心感が広がる。

しかし、その安堵は長くは続かない。

「ママ、ミク、おしっこ…」

突然ミクが立ち上がり、慌てて訴えてきた。サクラはすぐに反応したものの、間に合わなかった。

「ああ、また…」

サクラはため息をつくが、ミクの顔を見ると叱る気にはなれなかった。大きな瞳には不安が滲んでいる。「ミク、大丈夫だよ。今度は早めに教えてくれればいいからね。」

ミクは小さく頷いた。

サクラは自分の疲れた体を起こし、床を拭きながら考える。このトイレトレーニングが、彼女たちの生活を少しでも楽にしてくれるならば…と。

午後の時間、サクラはミクと二人きりでトイレの練習をすることに決めた。

「ミク、トイレさんに会いに行こうか?」

「トイレさん?」

ミクは小首をかしげるが、サクラの提案に少し興味を示した。サクラはトイレのドアを指差し、にこりと微笑む。

「そうよ。トイレさんは、ミクが用を足すのを助けてくれるよ。怖くないし、みんなが使っているんだよ。」

手を繋いでトイレに向かうと、サクラは便器の前でしゃがみ込んだ。そして柔らかい声で話し続ける。「ここに座るだけでいいの。何も起きなくても大丈夫。ゆっくりやってみようね。」

ミクは少し躊躇したが、母親の優しい声に安心し、小さな体を便座に乗せた。

「えらいね、ミク!」

サクラは心から褒めた。ミクは得意げに笑顔を見せる。その小さな笑顔が、サクラにとってどれほどの救いであるか、ミクにはまだわからないだろう。

その日は成功しなかったが、サクラは焦らなかった。「今日はここまででいいよ。また一緒に練習しようね。」

それから数日、サクラとミクのトイレ練習は続いた。何度も失敗があったが、そのたびにサクラは「大丈夫だよ」と声をかけ、ミクを抱きしめた。

「ママ、ミク、うんち、したい…」

ある日の午後、ミクがそう言ったとき、サクラはすぐに手を引いてトイレに向かった。

「落ち着いて、ゆっくりね。」

ミクは便座に座り、少しの間じっとしていた。サクラも隣で座り、静かに見守る。そして、ほんの少し音がした瞬間、ミクがぱっと顔を輝かせた。

「できた!ママ、できた!」

「ほんとだ!ミク、すごいね!」

サクラはミクを抱き上げ、ぐるりと回る。小さな達成感が、母と娘の心を温めた。

その夜、サクラは布団の中でふと思う。この一年半、悲しみや孤独、不安が彼女を何度も押しつぶしそうになった。それでも、娘たちと過ごす毎日の中で、小さな喜びが少しずつ彼女を支えてくれている。

「私はちゃんと、母親としてやれているのだろうか。」

そんな疑問が心によぎることもある。でも、今日のミクの笑顔を思い返すと、ほんの少しだけ自信が湧いた。

「明日も、少しずつやっていこう。」

サクラはそう心に誓い、眠りについた。彼女の周りには、3人の娘たちの穏やかな寝息が響いていた。

小さな部屋の中には、確かに家族の温もりがあった。







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