陽だまりの家

小さな翼を広げて

小さな翼を広げて

サクラは6歳になったばかりの長女ハルを見つめながら、その成長に驚きを感じていた。最近のハルは、妹たちに対してお姉さんらしい振る舞いを見せることが増えてきた。いつの間にか、自分の欲求を少し抑え、二人の妹たちのわがままにも耳を傾け、上手に仲裁をするようになっている。たとえヒナやミクが癇癪を起こしても、ハルは忍耐強く対応し、彼女なりの言葉で「今度は順番ね」と諭す場面さえある。

ある日、サクラはハルと一緒にバスに乗る機会があった。ハルは自然と窓際に座り、サクラの方を見て「ママ、ここで静かにしようね」と小声で言った。その落ち着いた態度に、サクラは少し驚き、成長を感じずにはいられなかった。ハルは公共の場所でのマナーも徐々に理解し始め、さりげなくそれを守ろうとする姿があった。

「ハル、お姉さんみたいね」とサクラが微笑むと、ハルは少し照れくさそうにうつむきながらも誇らしげに笑った。

家に帰ると、ハルは最近気に入っている絵本を手に取り、一人でページをめくり始めた。まだ完全にスラスラとは読めないが、ひらがなや数字に興味を持ち、少しずつ一人で読もうとする姿は微笑ましい。彼女が「これは何て読むの？」と尋ねるたびに、サクラは丁寧に教える。そんな時間が増えるたび、サクラは二人で過ごす時間の大切さを再認識していた。

ある日、ハルが新しいハサミを使っている姿を見て、サクラはさらに驚かされた。以前はぎこちなかった動作も、今では器用に切り抜きをするまでに上達していた。ハルが「見て、これがうさぎさん！」と得意げにサクラに見せた時、サクラは彼女の成長が自分の想像以上であることを感じた。

ハルの成長は、サクラにとって一つの励ましでもあった。夫を失い、精神的に苦しい時期を過ごしてきたが、子供たちの成長が彼女に前向きな気持ちを与えていた。ハルは母親を気遣うような振る舞いを見せることもあり、サクラはそれに癒され、勇気をもらっていた。

サクラはある夜、眠れないまま布団の中でぼんやりと天井を見つめていた。静かな家の中で、かすかに聞こえる子供たちの寝息がサクラの心を少しずつ安らげていく。しかし、ふと「私ひとりでこの子たちをちゃんと育てていけるのだろうか」という不安が胸の奥に浮かび上がってきた。

そんな中、隣で眠るハルが寝言をつぶやいた。「ママ、がんばってね…」その言葉にサクラは驚き、涙がじわっと浮かんできた。幼いながらも、ハルは母親の心の揺れを感じ取っていたのだろうか。ハルが言葉を発する度に、サクラは何度も自分が思っていたよりも成長していることを実感する。

翌朝、サクラは子供たちと一緒に庭でシャボン玉遊びをすることにした。サクラが大きなシャボン玉を作ろうとすると、ハルが「私もやってみたい！」と目を輝かせた。シャボン玉液にほんの少しグラニュー糖を入れ、粘りのある液を作ってから、二人でそっと息を吹きかけると、大きなシャボン玉ができた。

「ママ、見て！こんなに大きいの！」と、ハルが嬉しそうに声を上げる。シャボン玉はふわふわと風に乗って空へと浮かび、日差しを受けて虹色にきらめきながら揺れていた。その姿を見つめるハル、ヒナ、ミクの顔には純粋な喜びが溢れていて、サクラの心も自然と軽くなっていく。

「ハルも、ヒナも、ミクも、ありがとうね。ママも、みんなと一緒に頑張るからね」と、サクラは心の中でそっと誓った。

その後もシャボン玉は空を舞い続け、子供たちの笑い声が庭に響いた。サクラはその音に耳を傾けながら、これからもこの子たちと一緒に歩んでいくことを改めて決意した。子供たちの成長を見守り、そして自分もまた成長していく母としての日々が、サクラの心に小さな希望の光を灯し始めていた。