陽だまりの家

七五三の秋、家族の記念日

「七五三の秋、家族の記念日」

11月15日。外はしっとりと秋の陽射しが差し込んでいる。サクラは窓の外を眺め、今年の七五三が訪れたことをぼんやりと思い出していた。夫を亡くしてからの生活は、いつもと変わらない日常の繰り返し。お祝いごとなど遠い世界の話に思えたが、今日は何かが違った。静かに育児を続けてきた中で、ハルが「七五三って何？」と尋ねたのがきっかけだった。

「七五三はね、みんなが健康に育ってくれるようにお祝いする日なんだよ」とサクラは笑顔で答えた。ハルは真剣な顔でうなずいた。彼女もまだ6歳ながら、家の事情をなんとなく理解しているようだ。今日は何か特別なことをしてあげたい。そう思ったサクラは、小さな勇気を出して、子どもたちを連れて散歩に出かけることにした。

準備を進める中で、次女のヒナが「今日はどこ行くの？」と聞いてきた。いやいや期を卒業しつつあるヒナの言葉に、サクラは少し心が温かくなった。三女のミクはまだ2歳で、母のそばにしがみつきながら無邪気に笑っている。そんな光景が、サクラにとってかけがえのないものになりつつあることを感じた。

外へ出ると、冷ややかな風が頬を撫で、秋の香りが漂ってきた。近所の公園へ向かう道すがら、サクラは少しずつ自分を取り戻していくような気がした。鬱のリハビリに取り組む毎日ではあるが、この小さな幸せを感じられる瞬間が、今の彼女を支えているのだ。

公園に到着すると、周りには七五三のお祝いをしている家族の姿は見当たらなかった。平日ということもあり、サクラたち以外の姿はまばらで、ひっそりとした静けさが広がっていた。ふと寂しさがこみ上げてきたが、それでも子どもたちと過ごすこの時間が特別なものに思えた。

「ハルちゃん、ヒナちゃん、今日は特別なおやつを持ってきたよ。」サクラはバッグから、小さな包みを取り出して、手作りのクッキーを見せた。「わあ、おいしそう！」とハルとヒナが歓声を上げ、ミクも手を伸ばして嬉しそうにしている。その笑顔に、サクラは自然と心がほぐれていくのを感じた。

「パパもきっと喜んでるよね。」ハルがそう呟いた。サクラは胸が締め付けられるような思いになり、少しだけ目を伏せた。しかし、ハルの言葉に応えるように、「そうね、きっと見守ってくれてるよ。」と優しく言った。

子どもたちと一緒に秋の草花を眺めたり、落ち葉を踏んでカサカサと音を楽しんだりしていると、サクラは次第に心が穏やかになっていった。小さな日常の一つひとつが、彼女にとっての「リハビリ」なのだと気づく。

やがて日が傾き、冷たい風が少し強く吹き始めた。「さあ、そろそろ帰ろうか。」サクラは三人の小さな手を握り、公園を後にした。秋の日差しが彼女たちの後ろ姿を照らし、影が長く伸びる。その影を見つめながら、サクラは心の中でそっとつぶやいた。

「私たちは、こうして少しずつ前に進んでいくんだね。」

日々の暮らしの中で、一歩一歩を踏みしめて生きる。七五三という節目があったからこそ、このささやかな時間が大切に思えた。この日はサクラにとっても子どもたちにとっても、小さな、けれど大切な記念日になった。