陽だまりの家

春秋花壇

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溺水

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溺水

サクラは窓際に座り、青空をぼんやりと見つめていた。日差しは暖かく、家の中に穏やかな光を注いでいる。だが、その静けさの中でも、彼女の胸には重く沈んだ感情が渦巻いていた。夫を失ってから、彼女の人生は一変した。サクラはうつ病を抱え、日々の生活はまるで霧の中を歩くようだった。

25歳という若さで3人の娘たちを育てるのは、想像以上に過酷だった。5歳のハルはしっかり者で、妹たちの面倒をよく見てくれるが、それでもまだ子供だ。3歳のヒナは反抗期の「いやいや期」に突入し、何を言っても「いや!」と返すばかり。1歳のミクはいつも彼女の後ろをついて回り、サクラの注意を引こうとしていた。

その日も、サクラは家事の合間にひと休みしようとしていた。リビングには、子供たちがちらかしたおもちゃがあちこちに散らばっていた。彼女は深いため息をつく。最近、ふとした瞬間に「自分はこのままでいいのだろうか?」と考えることが増えていた。

その時、ハルが駆け寄ってきた。「ママ、水遊びしたい!」

サクラはハッとした。水遊び……。夏が近づいてきたこの季節、子供たちにとっては楽しみのひとつだ。しかし、サクラは一瞬不安を覚えた。自分はまだ心のバランスを取り戻せていない中、子供たちをどうやって安全に遊ばせればいいのだろうか?頭の中に、以前ニュースで見た子供の溺水事故の映像がよぎる。

「そうね、でも水遊びは危ないから、ちゃんと気をつけないといけないよ。」サクラは冷静に答えたが、内心は焦っていた。

ハルは少し不満そうに唇を尖らせた。「でも、プールで遊んでる子いっぱいいるよ。」

サクラは頷いた。「そうだね。でも、ママはまずちゃんと調べてからね。どんな危険があるか、ちゃんとわかってからにしよう。」彼女は子供たちの安全が何よりも大事だった。それは、夫を失った今、ますます強く感じるものだった。

その夜、子供たちが寝静まったあと、サクラは一人パソコンの前に座り、水にまつわる事故について調べ始めた。溺水に関する情報は、思った以上に多く、彼女の不安を煽った。特に幼い子供たちは、わずかな水深でも危険にさらされるということを知り、背筋が冷たくなった。

「溺れるのは、静かに起こることが多い……」という一文がサクラの目に留まる。子供は水中でもがくようなことはせず、突然動かなくなることがあるという。その恐ろしい現実に、サクラは震えた。水は、楽しい遊び場にもなれば、命を奪う危険な場所でもある。彼女の胸の中に、不安がますます広がった。

数日後、サクラは子供たちと近所の公園に出かけることにした。ハルは水たまりを見つけて「ママ、水遊び!」と声を上げた。ヒナもミクも笑顔で駆け寄ってくる。その光景を見て、サクラは心が痛んだ。子供たちは純粋に遊びたいだけなのに、自分の不安がそれを妨げてしまっている。

「少しだけね。ママがちゃんと見てるから。」サクラは覚悟を決めて言った。

ハルは嬉しそうに水たまりで跳ね回り、ヒナとミクもその周りで笑いながら楽しんでいた。その様子を見て、サクラはふと気づいた。自分が子供たちを守りたい気持ちは、恐れからだけではない。愛する娘たちが安全に成長し、世界を楽しむことを願っているからこそ、彼女は慎重になる。

「ママ、見て!」ハルが水たまりで大きく跳ねると、彼女のスニーカーに水が跳ね返った。

「気をつけてね。」サクラは少し笑顔を見せながら言った。彼女はまだ完全に不安から解放されてはいなかったが、少しずつ前に進む決意を固めた。

家に帰る道すがら、ヒナが「いやいや!」と言いながら歩くのを見て、サクラは小さく笑った。彼女の心はまだ重いものを抱えていたが、娘たちの笑顔や元気な姿が、その重さを少しずつ和らげてくれていた。

夜、子供たちが眠りに落ちた後、サクラは再び静かに考えた。水遊びや公園での小さな出来事が、彼女にとっては大きな試練であり、同時に前に進むための一歩だった。いつの日か、自分もこの心の霧を抜け出し、もっと自由に子供たちと過ごせる日が来ると信じたい。そして、夫の思い出に恥じないよう、彼女は母親としての役割を果たしていく決意を新たにした。

「明日もまた頑張ろう。」サクラはそうつぶやき、子供たちの寝顔を見つめながら眠りについた。
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