陽だまりの家

介護の現実

介護の現実

夏の日差しが照りつける午後、サクラは介護施設での仕事を終え、疲れた体を引きずるようにして家路についた。夕方の風が心地よく感じるものの、彼女の心には重い雲がかかっていた。無資格者の手取り額が約8.4万円から約9万円という現実。初任者研修を受け、試験に合格しても、給料は約8.7万円から約9.3万円。頑張って働いても、生活保護を切ることができない。そんな現実が、彼女の心を締めつけた。

サクラは一度、ため息をついた。「こんなに頑張っているのに、生活が厳しいってどういうこと？」彼女は小さな手のひらを両方の頬に当てて、顔をしかめた。介護の仕事はやりがいがあったし、入居者たちとの交流も楽しい。しかし、金銭的な現実がそれを打ち消してしまうのだった。

家に帰ると、3人の娘たちが笑顔で迎えてくれた。「ママ、おかえり！」ハルの元気な声が、サクラの心を少しだけ癒してくれる。ミクは無邪気にハルに寄り添い、ヒナはお絵かきの準備をして待っていた。サクラは彼女たちの姿を見て、心の中の重荷を一時的に下ろした。

「今日は何を描くの？」サクラが尋ねると、ヒナはニコニコしながら、「虹！」と答えた。サクラも笑顔になり、子供たちと一緒にお絵かきを始めた。しかし、その楽しさも束の間、すぐに心の奥にある不安が再び頭をもたげてきた。

数日後、仕事の帰りに同僚の美咲と一緒になった。美咲もまた、介護職の厳しい現実を痛感している一人だ。「サクラ、給料が低すぎるよね。これじゃ生活できないよ」と、美咲が口を開いた。

「本当に。働いても、生活保護を切るなんて夢のまた夢だよ」とサクラが同意する。「私たち、もっと評価されるべきだと思う。心から人を助けているのに、給料がこんなに低いなんて…」

「せめてもう少し給料があれば、私ももっと頑張れるのに」と美咲が呟く。彼女の言葉は、サクラの心に重く響いた。

サクラは、子供たちを育てるために、できるだけ前向きに考えることを心掛けていたが、現実の壁はあまりにも高かった。給料の低さが続く中、日々の生活における出費は増え、どうやってやりくりしていくかを考えることが、彼女の頭を占めていた。

ある晩、サクラはネットで介護の現状について調べてみた。給料が安い理由や、業界の構造、他国と比較した場合の労働環境などが書かれていた。読んでいくうちに、ただの現実逃避ではないと感じた。「介護職は、もっと尊重されるべき職業なのに、どうしてこんなにも差別されるのか」と、彼女の心に怒りが湧き上がった。

次の日、サクラは介護施設の職場での会議に参加した。上司が給料の改善について触れる場面があったが、決定的な進展は見られなかった。「私たちの努力が、正当に評価されていない」と、心の中で呟くサクラの思いは強くなった。

「私たちの仕事は、社会にとって欠かせないものです。だから、私たちも相応の報酬を受ける権利があるはずです！」と、思い切って発言する決意を固めた。しかし、いざ口に出すとなると、やはり不安がこみ上げてきた。

会議の後、同僚たちと話をする中で、共感する声が増えていった。「給料が低いのはおかしい」と口を揃える仲間たち。サクラは、その中で少しずつ自分の心の中の迷いが晴れていくのを感じた。

数日後、サクラは決心をして、労働組合のミーティングに参加することにした。自分たちの声を集め、少しでも改善に向けて行動を起こしたいと考えた。ミーティングでは、同じような思いを抱える仲間たちが集まり、介護業界の現状や改善策について意見を交わした。

「私たちは、ただ黙っているだけではなく、行動を起こすべきです」と、サクラは自分の考えを伝えた。その言葉は、仲間たちの心に火をつけ、参加者たちの士気を高めた。

数ヶ月後、サクラたちの活動が少しずつ実を結び始めた。施設内での給与改善についての交渉が始まり、彼女たちの声が少しずつ届くようになった。給料が少しだけ上がることが決まった瞬間、サクラは涙を流した。「これが、私たちの努力の成果なんだ」と、仲間たちとともに喜びを分かち合った。

「給料が上がったからって、全てが解決するわけではない。でも、これからも一歩ずつ進んでいこう」と、サクラは心に誓った。彼女は、介護職のやりがいを感じつつ、これからも娘たちのために、社会の一員として自分の道を歩んでいくのだった。