陽だまりの家

しっかり前を見て

しっかり前を見て

サクラは窓の外を眺めながら、心の中で思いを巡らせていた。彼女の目の前には、幼い娘たちが遊ぶ姿が映っている。5歳のハル、3歳のヒナ、1歳のミク。彼女たちの無邪気な笑い声が、サクラの心を少しだけ温かくしてくれた。しかし、現実は厳しい。生活保護費302,790円では、家族4人が生活するには到底足りないことを、サクラは痛感していた。

夫を交通事故で亡くしてから、サクラは心のどこかで彼を失ったことを受け入れられずにいた。うつ病を抱える彼女にとって、毎日を生き抜くことは簡単ではなかった。精神障害者手帳2級を持つサクラは、家事や育児をしながらも、自分の心の健康を保つのが精いっぱいだった。

「ママ、ハルもお手伝いしてもいい？」長女のハルが明るい声で言った。サクラは微笑んで、「もちろん、ハル。今日はお掃除しようか」と返した。少しずつ、ハルにお手伝いをさせることで、家の中を整えると同時に、ハルにも自立心を育てたいと考えていた。

一緒に掃除をしていると、ふとサクラの頭の中に「介護の仕事ができたら嬉しいな」という思いがよぎった。彼女は以前、看護学校で介護の勉強をしていたことがあった。資格を取るためには再度勉強しなければならないが、今の彼女には難題だ。しかし、働くことができれば、娘たちのために少しでも経済的な余裕が生まれるかもしれない。そんな思いが、サクラの心に小さな火を灯した。

その晩、サクラはネットで介護の求人情報を調べ始めた。近所の施設での募集がいくつかあり、仕事内容や勤務条件を読みながら、心が躍るのを感じた。「これならできるかもしれない」と、彼女は自分を奮い立たせた。時間は限られているが、子供たちのために少しでも貢献したいという思いが、サクラを後押ししていた。

翌日、サクラは近所の介護施設を訪れ、求人を申し込んだ。面接の日が近づくにつれ、不安と期待が入り混じった気持ちになった。自分が社会復帰できるのか、子供たちをどのようにケアするのか、様々な疑問が頭を巡った。

面接の日、サクラは緊張しながらも、勇気を振り絞って施設に足を踏み入れた。優しそうなスタッフたちが迎えてくれ、彼女はほっと胸を撫で下ろした。面接官は、サクラの経歴や志望動機を丁寧に聞いてくれた。

「大変な状況ですが、ぜひ力を貸していただきたいです」と言ってくれたその言葉に、サクラは涙が出そうになった。自分の存在が必要とされていることが、こんなにも嬉しいことだとは思わなかった。サクラは小さくうなずき、面接を終えた。

数日後、サクラに合格の知らせが届いた。彼女の心は歓喜に満ちた。「これで少しずつ前に進める」と、希望の光が見えた気がした。新しい仕事が始まる日、サクラは子供たちに微笑みかけながら、「ママ、頑張ってくるからね」と言った。

ハルは不安そうに顔を曇らせたが、「ママ、頑張ってね」と応えてくれた。ヒナとミクも、笑顔で見送ってくれた。その瞬間、サクラは自分が母親であることの意味を再確認した。

仕事が始まると、サクラは忙しくなる中でも、次第に心の健康を取り戻していった。施設での仕事は大変だったが、入居者との交流やスタッフとの連携が、彼女の心を満たしてくれた。笑顔で感謝されることが、何よりも嬉しかった。

子供たちとの時間も大切にしたいと、サクラは仕事が終わった後、できるだけ一緒に過ごすよう努力した。週末には一緒に遊びに行くことも増え、彼女の心も徐々に軽くなっていった。子供たちの笑顔を見ることで、自分自身も幸せを感じるようになった。

時間が経つにつれ、サクラは自分の居場所を見つけていった。新しい仲間や、子供たちとの絆が、彼女の心を支えてくれた。うつ病は完全には治らなかったが、前を向く力を少しずつ取り戻していた。

「しっかり前を見て、一歩ずつだよね」と、サクラは自分に言い聞かせる。これからも、彼女は娘たちと共に生きていく。辛いことも多いが、それでも彼女には家族がいる。明るい未来を信じて、彼女は今日も前に進んでいくのだった。