陽だまりの家

春秋花壇

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小さな芸術家たち

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小さな芸術家たち

サクラは、毎日子供たちと一緒に絵を描く時間を大切にしていた。子供たちが自由にクレヨンを走らせ、思い思いの世界を描き出す姿を見るのが、何よりの楽しみだった。

朝、いつものようにリビングのテーブルにクレヨンと画用紙を並べると、5歳の長女ハルが嬉しそうに駆け寄ってきた。「お母さん、今日も一緒にお絵描きしよう!」と元気な声で言う。

「もちろんよ、ハル」とサクラは微笑み、クレヨンを手に取った。3歳の次女ヒナも「私も!」と元気いっぱいに画用紙の前に座り、1歳のミクもお母さんの膝の上にちょこんと座って、嬉しそうにクレヨンを握っていた。

ハルはすでに画用紙に大きな空を描き始めていた。以前はただ青色を画用紙全体に塗りつぶすだけだったが、最近では空と地面をしっかり区別して描けるようになっていた。空は画用紙の上の方に、地面は下の方に、そして花や木を丁寧に描き加えていく。「お母さん、見て!空は青いけど、夕方になるとオレンジ色になるんだよ」と、ハルは得意げに話した。

「本当に素敵な空だね、ハル」とサクラは感心したように褒めた。「夕方の空は、日が沈むときにオレンジやピンク、紫が混ざってとても綺麗だよね。」

ハルはその言葉を聞いて、さらに細かい色を加え始めた。青とオレンジのグラデーションに、雲の形も少しずつ立体感が出てきている。子どもながらに、彼女の想像力はどんどん広がっているようだった。

一方で、ヒナは少し苦戦しているようだった。彼女はじっと考え込んでから、何かを思い出そうとして一生懸命に手を動かしている。「えっと…お花はここで、木はここ…」とつぶやきながら、まだぎこちない手つきで描いていたが、その真剣な姿にサクラは心が温かくなった。

「ヒナ、上手に描けてるよ。お花はどんな色が好き?」とサクラが声をかけると、ヒナは少し考えて「ピンク!」と笑顔で答えた。ピンクのクレヨンを握りしめた小さな手が、一生懸命に花びらを描き加えていく姿は、見る者の心を和ませるものだった。

そして、ミクも負けじとクレヨンを握って、画用紙にぐちゃぐちゃと線を描いていた。まだ1歳という幼さから、もちろん形らしいものは描けないが、それでも彼女は楽しそうに手を動かしていた。最近は、何とかして円を描こうとしているのか、いびつながらも少しずつ円らしき形が画用紙に現れるようになってきた。

「ミク、すごいね!円が描けるようになったの?」とサクラが声をかけると、ミクは誇らしげに「うん!」と頷いた。サクラはその姿に感嘆の声をもらし、「人間の脳って本当にすごいなぁ」と心から感動していた。

まだほんの小さな子どもたちが、それぞれのペースで自分なりに世界を表現している。この短い時間の中で、彼女たちは日々成長していることをサクラは感じていた。ハルの描く空、ヒナの描く花、ミクの描く円。それぞれがその瞬間の彼女たちの成長の証であり、母親としてこれ以上の幸せはないと感じる瞬間だった。

サクラ自身も、子供たちと一緒に描くことを楽しんでいた。クレヨンを手に取って、少し昔を思い出しながら自分の絵を描き始める。子どもたちが隣で楽しそうに絵を描いている姿を見ながら、彼女も自然と笑顔になる。

しばらくすると、ハルが「お母さん、これ何に見える?」と、自分の描いた絵をサクラに見せてきた。そこには、大きな青い空とオレンジの夕焼け、そして地面に咲くたくさんの花が描かれていた。

「うーん、これは…お花畑と、綺麗な夕方の空かな?」とサクラが答えると、ハルは満足そうに「そう!お花畑で遊んでるの」と言って、笑顔を浮かべた。

ヒナも「私の絵も見て!」と自分の画用紙を見せてきた。彼女の描いた花はまだぎこちないが、一生懸命描いた努力の跡がそこにあった。「ヒナもとっても上手だよ!このピンクのお花が素敵ね」とサクラが褒めると、ヒナも嬉しそうに「えへへ」と照れた。

ミクもまた、自分のぐちゃぐちゃな絵を自慢げに見せてきた。「ミクも頑張ったね!」とサクラが声をかけると、ミクはにこっと笑い、また新しい線を描き始めた。

サクラは、こうして毎日子どもたちと過ごす時間が本当にかけがえのないものだと感じていた。彼女たちの小さな成長を見守りながら、自分もまた親として少しずつ成長しているような気がした。

「今日もみんな、素敵な絵が描けたね」とサクラは微笑み、子どもたちと一緒に絵を見ながらその一瞬を楽しんでいた。









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