春秋花壇

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初雪

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初雪

今年も、あの季節がやってきた。冬の訪れを知らせる冷たい風が頬を刺す。都会の喧騒の中、静かに降り始めた雪が街を白く染めていく。ビルの間に挟まれた狭い路地を歩く私の肩にも、いつの間にか小さな結晶が積もっていた。

「初雪か……」

そう呟いた瞬間、遠い記憶が胸に蘇る。十年前、あの冬の日。まだ高校生だった私は、あの日の初雪を彼と一緒に見ていた。

その日はとても寒く、放課後の部活帰りに彼と偶然出会った。彼――翔太は隣のクラスの人気者で、いつも笑顔を絶やさない明るい性格だった。それに比べて、私はどちらかといえば地味で、本を読むのが好きなタイプ。共通点なんてほとんどなかったのに、翔太はよく私に声をかけてきた。

「おーい、千夏!今日は何読んでんの?」

いつもの調子でそう話しかけてくる翔太に、私は本を閉じて答えた。

「今日は推理小説。面白いよ、これ。」

「あ、そうなんだ。推理小説って、なんか頭使うよな。俺には難しそうだ。」

いつも軽口を叩く翔太に、つい笑ってしまう。彼と話す時間は、普段の静かな日常とは違う色彩を持っていた。

その日も、彼と二人で帰ることになった。学校の正門を出たところで、ちらちらと白いものが舞い降りてきた。

「お、初雪だ!」

翔太が空を見上げて声を上げる。私も立ち止まって空を見た。夜空に浮かぶ街の灯りが、降り注ぐ雪をぼんやりと照らしている。その光景に、一瞬、時が止まったかのような感覚を覚えた。

「綺麗だな……」

翔太の横顔が、今でも鮮明に記憶に残っている。

「千夏ちゃん?」

ふと、呼びかけられて現実に戻る。目の前に立っていたのは、翔太の幼馴染である佐藤さんだった。彼女とは最近、偶然再会して交流を深めている。

「ごめん、ちょっと昔を思い出してた。」

「もしかして翔太くんのこと?」

そう言われて胸が締め付けられる。あの初雪の日から、私は翔太と少しずつ距離を縮めていった。しかし、高校卒業後、翔太は海外留学を選び、私たちは自然と疎遠になった。そして数年前、彼が不慮の事故で帰らぬ人となったという知らせを聞いた。

「うん……初雪を見るたび、どうしても思い出しちゃうの。」

「そうだね。翔太くん、いつも楽しそうにしてたよね。きっと、天国でも笑ってると思うよ。」

佐藤さんの言葉に、少しだけ心が軽くなった気がした。初雪がもたらす記憶は、悲しみだけじゃない。翔太が教えてくれた笑顔や、温かい時間も含まれているのだ。

「ありがとう。私も、彼が笑ってくれるように前を向かないとね。」

佐藤さんに微笑み返し、私は再び歩き出した。雪がしんしんと降り続ける中、翔太の明るい声が風に乗って聞こえた気がした。

「初雪だ!綺麗だな!」

私はそっと空を見上げ、微笑む。初雪は、彼との思い出を運んでくれる、大切な贈り物だ。













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