春秋花壇

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白魔

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白魔

深い森の中、白い霧が立ち込める場所にひときわ異彩を放つ家があった。それは、村人たちに「白魔の家」として恐れられていた。人々はその家のことを避け、近づかないようにしていたが、子供たちの間では好奇心に駆られ、無断でその家を覗き見たり、噂をしたりすることが度々あった。

その家には、リリィという女性が住んでいた。彼女は、その美しい白髪と透き通るような肌、そして深い紫色の瞳で知られていた。見た目は優雅で、まるで人間とは思えないほど神秘的な雰囲気を纏っていた。しかし、彼女の存在は村人たちにとって忌避すべきものだった。

リリィは、古くからこの森に住んでいるとされる白魔(しろま)という特殊な魔法使いで、霧の中に住む者たちの守り手であるとも言われていた。彼女の力は、自然の力と深く結びついており、風や雨、光を自在に操ることができると言われていた。しかし、彼女の魔法の力には裏があり、その力を使うことで命のバランスを崩してしまうことがあると噂されていた。

ある晩、村の広場で暗い夜空を見上げていた少年、ケンジは、ふと気配を感じて振り返ると、白い霧が近づいてきているのを見つけた。その霧は、まるで生き物のように動き、ケンジに近づいてきた。彼は足がすくみ、動けなかったが、霧の中からリリィの声が響いた。

「ケンジ、怖がらなくていい。私が君を守るから。」

ケンジは驚いた。リリィの声は温かく、安心感を与えるものであったが、その言葉にどこか不安を覚えずにはいられなかった。リリィが言う「守る」という言葉は、どこか意味深で、彼の心に引っかかるものがあった。

リリィが姿を現すと、その美しい容姿と穏やかな笑顔は、まるで幻のようだった。彼女はケンジに微笑みかけ、手を差し伸べた。

「私の家に来て、少し話をしよう。」

ケンジは彼女に導かれるように、森の中の白魔の家へと足を踏み入れた。その家の中は静かで、心地よい温かさに包まれていた。リリィは、ケンジを座らせると、優雅に椅子に腰を下ろした。

「君は、なぜ私を恐れるのかしら?」

リリィの問いに、ケンジは少し考え込んだ。村では「白魔」と呼ばれ、恐れられている彼女に対して、何か特別な恐怖を抱いていた。しかし、その恐怖の正体がわからなかった。

「ただ、みんながそう言っているから…」

ケンジは答えた。リリィはしばらく黙っていたが、やがて静かに語り始めた。

「私が白魔だと言われるのは、力があるからかもしれない。でも、その力は決して悪いものではない。私の魔法は、自然を守り、必要な時には命を助けるために使うものなの。」

ケンジは驚いた。彼女が言うことが本当なら、白魔というのは恐ろしい存在ではなく、むしろ助けをもたらす者だということになる。

「私は、命の流れを守っているの。でも、命を守るためには時に痛みを伴うこともある。それがわかっているから、私は村人たちから避けられている。」

リリィは寂しげに微笑みながら続けた。

「私の力を恐れているのは、私が人々の命を操っていると信じているから。私が何かをすれば、誰かの命を奪うことになると思っている。でも、そんなことはない。」

ケンジはリリィの言葉に耳を傾け、心の中で彼女がどれほど孤独であるかを感じ取った。彼女の力は、他人を傷つけるためではなく、むしろ守るために使われている。そのことを理解し、彼女の優しさに触れたような気がした。

「でも、どうしても私を恐れる人々がいる。だから、私は彼らを傷つけないように、森の中に隠れているんだ。」

リリィの言葉が、ケンジの心に深く染み込んだ。彼は立ち上がり、リリィに近づいて言った。

「私、怖くない。リリィさん、あなたは悪い人じゃないんだね。」

リリィは驚いたようにケンジを見つめたが、やがてその顔に穏やかな笑みが広がった。

「ありがとう、ケンジ。君のように心を開いてくれる人がいてくれるだけで、私は少し安心できるわ。」

その後、ケンジは何度もリリィを訪ね、彼女の話を聞き、そして彼女が本当はどんな人物であるかを少しずつ理解していった。彼女の力は恐ろしいものではなく、自然を守るために使われるべきものだということを。

村人たちがリリィを恐れ続ける限り、彼女の孤独は続くだろう。しかし、ケンジだけは、その力を理解し、彼女の側に立つことを決めた。

リリィの白い霧は、今や村の一部となり、ただの恐怖の象徴ではなく、守り手の象徴として、村の人々の中に静かに息づいていくのであった。
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