春秋花壇

木の葉落とし

木の葉落とし

秋の終わりに差し掛かると、木々の葉が次々に落ちていく。それが、まるで何かを告げるかのように感じられる。風に揺れるその葉を見つめながら、私はいつもの公園のベンチに座っていた。肌に触れる冷たい空気が、もうすぐ訪れる冬を予感させる。

「寒いね。」

ふと、背後から声が聞こえた。振り返ると、そこには彼が立っていた。彼の名前は悠斗（ゆうと）。かつて、私の大切な人だった。でも今は…何もかもが変わってしまった。

「久しぶり。」

私は小さく微笑んだ。言葉が出てこない自分に少し驚きながら、目の前の彼を見つめる。彼の顔は、かつての面影を残しつつも、どこか少し大人になったような気がした。

「ほんとうに、久しぶりだね。」

彼はそう言いながら、ベンチの隣に座った。木の葉が舞い落ちる音が、静かな公園に響く。その音が、少しだけ不安を感じさせる。

「最近、どうしてたの？」

私はゆっくりと尋ねた。何かを言いたい、でも何も言えない。あの日から、私たちの間に流れた時間は長く、そしてあまりにも無駄に感じられるほどの距離を生んだ。

「まあ、普通かな。」

悠斗は少しだけ目を逸らしながら答える。彼が言う「普通」という言葉が、今の私にはどれだけ遠いものなのか、私は理解していた。

私たちは、いつの間にかお互いに傷を負い、壊れた関係を再構築することなく、時間に流されていった。彼の目の前に座っていると、そのことを思い出して胸が痛む。

「じゃあ…元気でよかった。」

私は無理に言葉を作って、うつむいた。木の葉がまた一枚、静かに地面に落ちる。その葉の落ちる速度が、私たちの間にあった時間を象徴しているように感じられる。

悠斗は少し考えるように黙っていたが、やがて静かに言った。

「…覚えてる？あのとき、二人でここに来たこと。」

「ああ。」

私の声は震えていた。あれから何年が経っただろう。二人で並んで歩いたあの日も、同じように秋の風が吹いていた。私たちの手はしっかりと繋がれていて、何も恐れることはなかった。だが、今となっては、その思い出が重くのしかかる。

「ここに来ると、どうしてもあの頃を思い出すんだ。」

悠斗は遠くを見つめながら、静かに続けた。彼の目の奥に、かつての私たちの関係が映っているように感じられた。

「私も。」

私は小さく息を吐いて、ゆっくりと答えた。心の中で、あの頃の自分を取り戻すことができればと思う。でも、今はもう無理だと知っている。あの頃の二人はもういない。時間が私たちを変え、距離を置いていった。それが、どれだけ悲しいことなのかを私は知っている。

「でも、もう終わったんだろうね。」

悠斗の声が、私の心をさらに引き裂く。その言葉は、私がずっと避けていた現実を突きつけてくる。

「うん。」

私は無理に笑顔を作ろうとしたが、それができなかった。涙がこぼれそうになったが、こらえることができた。今、ここで泣いたら、何もかもが壊れてしまう気がしたから。

悠斗は私を見つめていた。その目に、何かを伝えたそうな、でも伝えられないようなものが見えた。

「でも、また会えてよかった。」

悠斗の言葉に、私は顔を上げた。彼の目に見えるのは、過去の私たちの思い出か、それとも今の私なのか。どちらにしても、彼の言葉が胸に響く。

「うん。」

私はもう一度、小さく頷いた。それが精一杯だった。木の葉がまた一枚、また一枚と落ちていく。その音が、何も言わなくても私たちの心に響いていく。

悠斗は静かに立ち上がり、空を見上げた。その視線の先には、いくつかの落ち葉が風に乗って舞い上がり、空へと消えていく。

「このままでいいのかな。」

彼の呟きが、私に届いた。私たちが過ごした時間は、戻せるものではない。でも、今こうして一緒にいることで、何かを感じられる気がした。

「大丈夫。」

私は、少しだけ強く言った。木枯らしが吹く中で、私は悠斗に向かって歩み寄った。時間がどれだけ過ぎても、私たちの間に残るものがあるなら、それを大切にしなければならないと思った。

「ありがとう。」

彼は微笑んで、私を見つめた。そして、また歩き出す。二人で歩く道は、どこまでも続いていくように感じられる。

木の葉が舞い散る季節は、やがて終わりを迎える。でも、私たちの心の中には、まだあの頃の思い出が残り続けるだろう。過去を背負って、未来を歩むために。