春秋花壇

春秋花壇

「春秋花壇」

春秋花壇。私の庭。どこかで聞いた言葉のようで、でも私にとっては、まるで自分の人生そのものを象徴するような存在だった。季節ごとに花が咲き、枯れ、また新たな命が芽吹く。その繰り返しの中で、私は一つ一つの花を育てることに必死になってきた。しかし、今その花たちを手入れすることさえも、時には息苦しく感じる。

春の風が庭を撫で、秋の気配が遠くに感じられる今日、私はその庭に立っていた。目の前には、しおれた花や、育ちすぎた雑草が顔を出している。花々は、私と同じように時折しおれ、時折生き生きと咲く。その様子を見て、私は少しだけ深呼吸をした。

「また、あの花が枯れている…」

手を伸ばすと、枯れた花を摘むことができた。しかし、こうして摘んでいくうちに、自分の心の中にも枯れた部分があるように感じてしまう。花を育てるということは、私にとってただの手入れではない。それは、自己との向き合いであり、心の整理だった。

だが、そこにはまた悩みがあった。私は注意欠陥多動性障害（ADHD）を持っている。庭に出る度に、何をしているのかが分からなくなることが多い。花の手入れをしているはずなのに、つい他のことに気を取られてしまい、気づけば何も進んでいない。散らかった土や枯れた葉が、私の目に映る。どれもこれもやらなければならないことなのに、一度にすべてをこなすことができない。ひとつのことに集中するのがこんなにも難しいのか、と、改めて実感する。

「でも、やらないと……」

私は手袋をはめ、また雑草を抜き始める。雑草を引っこ抜くことは、まるで自分の頭の中にひしめく雑音を引き抜くようなものだ。しかし、それもすぐにまた生えてくる。まるで、何かを始めてもすぐに途切れてしまう自分のようだ。

また、手を止める。視線が遠くの花に移り、次に目を向けたのは病気にかかっている花だ。葉が変色し、元気をなくしている。病気の花を手当てするのは、いつも心が重くなる作業だ。しかし、それを放っておくわけにもいかない。私の庭だからこそ、手をかけなければならない。

「どうして、こんなにうまくいかないんだろう」と、私は小さくつぶやいた。

それは、注意欠陥多動性障害だけではない。識字障害も私を悩ませている。マニュアルが読めない。文字の中で迷子になり、必要な情報を見逃してしまうことが多い。例えば、この花にどんな薬を使うべきか、どのタイミングで水をやるべきか、そのすべてが不安だった。私の手には何も確かなものがないような気がして、心が不安定になる。

時折、私は他人が持つ「理解力」や「計画力」がうらやましく感じる。どうしてあの人は、目の前の作業をスムーズに進められるのだろう？どうして自分は、一つのことにすら集中できないのだろう？　手が止まる度に、そんなことが頭をよぎる。

でも、こうして何も進まないことが、逆に私にとっては一つの「進歩」かもしれないと思うこともある。花々が枯れていくのを見て、私は次にどうするべきかを考える。そして、雑草がまた生えてくるたびに、私は少しずつその対処法を覚えていく。

「まだ、終わりじゃない」そんな気持ちが胸の中でこだました。枯れた花を摘んだ後に、新たな花が咲くのを楽しみに、私はひとつひとつの作業を続けていく。

そのうち、手が止まることが少なくなり、作業が進んでいくのを感じる。それでも、時には無力感に襲われることもあるけれど、私はこの花壇に自分の成長の足跡を残していこうと思った。枯れた花や雑草を抜き取って、新しい命を育てるように。自分の中であきらめず、少しずつでも進んでいけたらいいと思う。

花壇の片隅で、私はまたひとつ、枯れた花を摘み取った。次に何をしようか、考えながら。