春秋花壇

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とろり白菜とベーコンのクリーム煮

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「とろり白菜とベーコンのクリーム煮」

あの日、玲奈は疲れて帰宅すると、冷蔵庫を開けて中を覗いた。仕事でヘトヘトの彼女の目に映ったのは、半分使いかけの白菜と数枚のベーコン、そして牛乳。料理をする気力もあまりない。でも、何か温かい料理でほっとしたい、そんな気持ちが彼女を突き動かした。

「とろり白菜とベーコンのクリーム煮…これなら簡単だし、温まりそう」

頭に浮かんだそのメニューは、実家の母がよく作ってくれたものだった。学生時代の試験が終わり、緊張が解けた冬の日に、母がテーブルに置いてくれたあの料理。トロトロの白菜とクリーミーなスープの味わいが、ふわっとよみがえる。

玲奈はさっそく包丁を手に取り、白菜をざく切りにした。ベーコンも一口大に切り分け、バターを熱した鍋にベーコンを入れると、ジュワッと香ばしい香りがキッチンに広がる。冷え切った体がじんわりと温まり始めるような気がした。

ベーコンが少し色づいたところで白菜を加え、さっと炒める。白菜が少ししんなりした頃、牛乳を注いでぐつぐつと煮込んでいく。そこにコンソメを加え、味を調えた。

ふわりと立ちのぼる湯気に、玲奈はふと目を細める。この料理は、寒い夜に食べると特別に美味しい。白菜がトロトロになって甘みが増し、スープが身体に染みわたっていくような優しさがある。

煮込んでいる間に、玲奈は少し思い出に浸った。忙しくなり始めた仕事の日々、家に帰ると待っているのはひんやりとした部屋の空気。仕事に追われる生活に慣れすぎて、温もりを忘れかけていたのかもしれない。今こうして、実家の味を思い出しながら料理をしていると、ほんの少しだけ心が軽くなるのを感じた。

やがて、クリーム煮は完成。とろりとしたスープと柔らかく煮込まれた白菜が、見るからに美味しそうだ。器にそっとよそい、玲奈はテーブルに運んで小さな一人の晩餐を始めた。

「いただきます」

スプーンを口に運ぶと、白菜がとろけ、ベーコンの塩気とスープの優しいクリームの味が絶妙に絡み合った。その一口で、玲奈の疲れがじわっと溶けていくようだった。料理をしている最中には気づかなかったが、こうして口に運んでみると、やはりこの味はどこか懐かしい。冷え切った体の芯まで温かさが染みわたるのがわかった。

「美味しい…」玲奈は思わず呟いた。これは母の味に近いけれど、ちょっと違う。自分で作ったからこそ、玲奈だけの味が加わっているのだろう。

ふと、玲奈は今度実家に帰って母と一緒に料理をしてみようかなと思った。いつも家族のために料理をしてくれた母に、今度は自分が「とろり白菜とベーコンのクリーム煮」を振る舞ってみよう。自分で作ったからこそ、母の味がどれだけ心に沁みたのかを改めて感じたのだ。

暖かいクリーム煮が、玲奈の心をそっと包んでくれたその夜。大切なものを少しだけ取り戻したような気がして、玲奈はゆっくりとした眠りについた。









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