春秋花壇

冬の訪れと温もり

「冬の訪れと温もり」

東京での冬の到来は、いつも突然だ。立冬を迎えた途端、昨日まで半袖で過ごしていたのが嘘のように、部屋の空気はひんやりと冷え込み、風が肌を刺すように感じられる。

今日の室温は12℃、湿度は49％。秋の名残がまだ漂っているはずなのに、私の体はまるで一気に冬の真っただ中に放り込まれたように感じている。厚手のトレーナーを着込んでみたが、それでも寒さは治まらない。何か足りない気がする。手足の指先がじんじんと冷たくなっていく。

試しにキッチンに立ち、あたたかいお茶を淹れてみた。湯気が心地よく立ち昇る。その湯気に手をかざし、ほんのわずかでも温もりを感じようとする。手のひらがじんわりと暖かくなるが、それも束の間だ。お茶を飲んでいる間だけは体が温まるが、飲み終えると再び冷えが戻ってくる。

「もっと温かくする方法はないか…？」

私はクローゼットを開け、今度はタートルネックのセーターを取り出して着てみた。さらに、ふかふかの靴下を重ねばきする。室内で靴下を重ねて履くなんて少し大袈裟に感じるが、こうでもしないと寒さは耐えられない。何かをするたびに、冷えが体にまとわりついてくるようだ。

部屋の中を見渡していると、隅にしまっていたブランケットが目に入った。ふかふかで暖かそうな毛布だが、普段は真冬まで使わないつもりでいたものだ。でも、今のこの寒さには、思い切って取り出してみるのも悪くない。

ブランケットを肩に巻きつけ、ソファに腰掛けていると、不思議と少しずつ体が温まっていくのを感じる。毛布の柔らかさが肌を包み込み、冷えた体がじんわりとほぐれていく。私はその温もりに身をゆだね、少し目を閉じた。気づけば、窓の外には街灯がぼんやりと灯り、冬の夜の静けさが広がっている。

少し眠気が訪れそうになったそのとき、私は「湯たんぽ」の存在を思い出した。ずいぶん前に購入して以来、寒さに耐えきれないときだけ引っ張り出す便利な道具だ。早速取り出し、湯を沸かして湯たんぽに注ぎ込む。湯たんぽを両手で抱きしめると、しんと冷えた体にじわっと温かさが広がる。

湯たんぽを抱きながらブランケットにくるまり、静かな夜の中でその温もりを感じる。心地よい温かさがじんわりと全身に染み渡り、心までほぐれていく。ふと、心に暖かな記憶が蘇ってきた。かつて実家で過ごしていた頃のことだ。

母が冬の夜に作ってくれた、あたたかいスープの味。家族でこたつを囲んで、みかんを食べながら話した他愛ない話。そして、毛布にくるまりながら眠りについた寒い冬の夜。どれも、ただ温かいだけでなく、心まで満たされるような温もりに包まれていた。

その思い出に浸りながら、私はふと気づいた。この「冬の寒さ」に対抗するためには、単に暖かい服を着込むだけでは足りないのだと。冬の冷えは、体だけでなく心にも忍び寄る。だからこそ、心も一緒に温めてくれる何かが必要なのだ。

私はふと立ち上がり、再びキッチンへ向かった。小さな鍋でスープを作ることにした。具材は簡単なものでいい。玉ねぎ、じゃがいも、そしてにんじんを細かく切り、コンソメスープで煮込んでいく。ぐつぐつと煮える音、湯気に乗って漂ってくるやさしい香り。これだけでも、心が少しずつ温まっていくようだ。

スープが出来上がる頃、部屋の温度もほんの少し上がった気がした。湯気の立つスープを一口すすると、その温かさが体の中から広がっていくのを感じた。温かい飲み物やブランケットに加えて、こうした「温かい食べ物」も冬の寒さをしのぐのに欠かせないものだと改めて感じる。

私は湯たんぽを抱きしめながら、スープをすすり、冬の静かな夜をゆっくりと過ごした。毛布にくるまり、温かいスープを飲み、湯たんぽのぬくもりに包まれていると、不思議と寒さが遠のいていくように思えた。部屋の温度は変わらないままでも、心まで温かくなると、どこか冬の寒ささえも愛おしく感じられる。

その夜、私は暖房を使わず、湯たんぽと毛布にくるまって眠りについた。夜が更けると外の風がいっそう冷たく感じられるが、それでも私は十分に暖かかった。そして、冬の夜の静けさと温もりの中で、ふと気づいたことがあった。

「冬の寒さ」は、単に冷えだけでなく、人をやさしい温かさの大切さに気づかせるための贈り物なのかもしれない、と。