春秋花壇

秋の訪れ

秋の訪れ

アメリカンハナミズキの木が、赤く染まった葉を揺らしていた。初秋から続く心地よい温暖な日々は、いつの間にか肌寒さを伴うようになり、ついに11月を迎えた。空は高く、透き通った青が広がる中、赤い葉がはらりはらりと地面に舞い落ちていく。その姿はまるで、自然が織りなす美しい舞踏のようだった。

街の片隅に立つこのハナミズキは、ここ数年で目に見えて成長した。少し前まで小さな苗木だったこの木は、今では枝を大きく広げ、たくさんの人々に色とりどりの季節を届けてくれている。人々は通り過ぎるたびに、その美しさに目を奪われ、カメラでその瞬間を切り取る。そんな風景が、まるで日常の中にある特別なひとときのように思えた。

「もう11月か…」

公園のベンチに座るリナは、手に持った本を閉じ、周囲を見回した。彼女は大学生で、少し疲れた様子だった。秋学期が始まり、講義や課題に追われる日々が続いている。勉強に集中するあまり、心の余裕がなくなっていた。周りの友人たちも同様で、みんながそれぞれの目標に向かって走っている。

それでも、こうして公園で過ごすひとときは、心の癒しになっていた。秋の風に乗って、赤く染まった葉がふわりと舞い上がる様子を見つめると、どこか心が穏やかになる。自然の美しさは、疲れた心を和ませる力を持っていると、リナは改めて感じた。

その時、彼女の目の前に小さな男の子が現れた。彼は赤い葉を一枚手に持ち、目を輝かせている。無邪気な笑顔が、リナの心を一瞬で明るくした。

「これ、きれいだよね！」男の子は自慢するように葉を見せつけた。

「うん、すごくきれいだね。どこで見つけたの？」リナは微笑み返す。

「ここで落ちてたの。僕、もっとたくさん集めるんだ！」男の子は元気いっぱいに答える。

その無邪気さに、リナは思わず微笑む。自分も子供の頃、秋の風景に夢中になっていたことを思い出した。葉っぱを集めて、色とりどりの標本を作ったり、友達と一緒に落ち葉の山を作ったりしたことが、懐かしい記憶として蘇る。

「私も手伝っていい？」リナは男の子に提案した。

「うん、いいよ！」男の子は嬉しそうに頷き、二人は一緒に落ち葉を集め始めた。リナは男の子と共に赤やオレンジ、黄色の葉を拾い集め、次第に周りの公園も賑やかになっていく。

「これ、僕の一番好きな葉！」男の子は、手にした葉を掲げる。「リナさんも好きな葉、ある？」

「私は…この赤い葉が好きかな。秋って感じがするよね」とリナは答えた。

男の子は興奮しながら、様々な葉を見せてくれた。リナはその一つ一つに目を向け、まるで子供に戻ったかのように無邪気な気持ちになっていく。次第に周囲の景色が色鮮やかになり、彼女の心にも温かい色が広がっていった。

集めた葉を持って、公園の中心にある大きなハナミズキの木の下に戻ると、男の子は大声で叫んだ。「見て！葉っぱの山を作ろう！」

リナは笑いながら頷き、二人で拾った葉を思い切り地面に投げた。葉が舞い上がると、周りの人たちが笑顔で振り返り、拍手を送ってくれた。その瞬間、リナは自分がこの秋の一部になったように感じた。自然と人が繋がる、そんな小さな喜びが心を満たしていく。

「ありがとう、リナさん！一緒に遊んでくれて！」男の子は満面の笑みを浮かべていた。

「こちらこそ、楽しかったよ。あなたのおかげで、いい思い出ができた」とリナは微笑んだ。彼女は、その瞬間の美しさを心に刻んでいく。

帰り道、リナは自分の心がすっかり軽くなっていることに気づいた。秋の訪れを感じるこの季節の中で、無邪気な笑顔や、自然の美しさと共に過ごす時間は、何よりの贈り物だった。これからも、忙しい日々の中で小さな幸せを見逃さずに、心の余裕を持って過ごしていきたいと願った。11月の始まりは、リナにとって新たなスタートのように感じられた。