春秋花壇

三つの花

「三つの花」

秋の風がそっと吹き抜ける小さな庭園で、祖母がそっと花を植えているのを見たのは、私がまだ幼い頃のことだった。祖母はその庭に、赤いバラと白い百合、そして紫のアジサイを植えていた。その三つの花は、祖母が私にとって大切な思い出として話してくれた物語と深く結びついているものだった。

「このバラはね、あなたの母の花よ。」祖母はにこやかにそう言った。幼い私にはその意味がよく分からなかったが、赤いバラが力強く咲くさまを見ると、なんとなく母を思い出した。母は私にとっていつも強く、けれども優しい存在だった。忙しい日々の中でも、決して手を抜かずに家族を支えるその姿は、私の目にはまるで英雄のようだった。そのバラは毎年鮮やかな花を咲かせ、その度に私に母の愛を思い出させてくれるものとなった。

次に祖母は白い百合を指して、「これはあなたの父の花よ。」と囁いた。百合の花はその清らかさと香りで庭を包み込んでいた。父は決して多くを語らない人で、常に静かで落ち着いていたが、その内側には深い愛と誠実さが詰まっていた。幼少期、父がいつも私の隣で無言のまま見守ってくれる姿に安心感を感じたのを覚えている。その百合の香りを嗅ぐたびに、私は父のぬくもりに包まれていた幼い頃の記憶が蘇るのだ。

最後に、祖母は私に紫のアジサイを見せながら微笑んだ。「そして、このアジサイはあなたの花よ。」アジサイは、季節やその年の気候によって色を変える不思議な花だ。子どもの頃の私は、どうして自分の花がこんな変わりやすいアジサイなのか分からなかった。けれども、祖母は優しく私の頭を撫でて言った。「どんな色にでも染まれるから、きっとどんな人とも仲良くなれるわよ。」

年月が経ち、私はこの家を離れ、新しい街で新たな生活を始めることになった。祖母が残した三つの花を見守りながら、私はいつも心の中に彼女の言葉を抱いていた。たとえ離れても、三つの花は私と家族を繋ぐ大切な象徴だった。

しかし、祖母が亡くなった報せが届いたのは、私が新しい街での生活に少し慣れた頃だった。信じられない思いで家に帰ると、庭の三つの花は美しく咲き乱れていた。まるで、祖母が最後の力を振り絞って花たちに託したかのようだった。私は涙をこらえながら、そっと花の前に立ち、祖母の想いが込められたそれぞれの花に向き合った。

そのとき、ふと気づいた。バラも百合も、そしてアジサイも、全てが私を見守ってくれているように感じた。家族の愛は時を越えて、形を変えても変わらずにここにあるのだと。

その日から、私は定期的に家に帰り、祖母が遺してくれた庭を手入れするようになった。三つの花を守り続けることが、祖母への、そして家族への感謝の証のように感じられたからだ。毎年春になると、アジサイは青や紫に色づき、バラは燃えるような赤で、百合は清らかな白で庭を彩った。

時には雨に打たれ、風に揺れる花たちを見ると、人生の浮き沈みの中で、それでも変わらずに家族の愛が私を支えてくれていることに気づかされる。祖母がこの庭に三つの花を植えた理由が、今ならよく分かる。

そして私も、将来この庭を我が子に見せて、三つの花の物語を伝えるだろう。家族の絆と愛を、次の世代に受け継ぐために。そして、どんな時でも愛に包まれていることを感じてほしいと願って。