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雑木林の思い出

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雑木林の思い出

秋の柔らかな光が、雑木林の中を透かしていた。風が木々を揺らし、葉が黄金色に輝く様子は、まるで自然が贈る絵画のようだった。私は、家族と一緒にこの雑木林を訪れることにした。子供たちが小さい頃から、毎年この場所に来るのが恒例行事になっていた。

「今日はどんな発見があるかな?」と、息子の大輝が期待に満ちた目を輝かせて言った。彼の隣には、妹の美咲がいて、どんぐりを拾う準備をしていた。雑木林の中には、クヌギや楢、柏などのブナ科の木々が立ち並び、その実が地面に落ちているのだ。

「どんぐりの殻斗を見つけたら、特別なものになるんだよ」と、私は子供たちに教えた。「殻斗に包まれたどんぐりは、まるで小さなお椀の中に入っているみたいで、特別感があるんだ。」

雑木林に足を踏み入れると、すぐに周囲の音が変わった。木の葉がさざめく音、小鳥たちのさえずり、そして子供たちの元気な声。自然と家族のつながりを感じる瞬間だった。私はその場の空気に包まれて、心が穏やかになっていくのを感じた。

「見て、パパ!」美咲が小さな声を上げた。彼女は、地面に落ちたどんぐりを見つけて、興奮している様子だった。私は彼女のそばに寄り、どんぐりを手に取った。完璧な丸い形と、艶やかな表面。美咲の笑顔がどれほど嬉しいことかを思うと、私も心が躍った。

「お椀みたいな殻斗も見つけることができるかな?」私は子供たちに尋ねた。大輝は「探してみる!」と、意気込んで走り出した。その後ろを美咲が追いかける。どんぐりを探しながら、彼らの笑い声が森の中に響き渡る。まるで、自然がその声を受け入れてくれているかのようだった。

少し歩くと、子供たちが興奮して戻ってきた。「見て、こんなの見つけたよ!」大輝は、手に持ったどんぐりを見せた。周りには、美咲が集めた小さなどんぐりが散らばっていた。「これは、クヌギの実だね。」私は彼らに教えた。「縄文時代の人たちも、こうやってどんぐりをあく抜きして食べていたんだ。」

「本当に?それなら、僕たちも料理できるのかな?」大輝は目を輝かせた。私は笑いながら、「そうだね。でも、まずはどうやってあく抜きするのか調べないとね」と答えた。自然と過去のつながりを感じる瞬間だった。

私たちはその後もどんぐりを集め、雑木林を探索した。美咲は「この木の下に、もっとたくさんのどんぐりが落ちてるよ!」と叫んでいた。私たちは、その木の下に移動し、しばらくの間、どんぐり拾いに夢中になった。子供たちの笑顔が周囲の風景に溶け込み、まるで自然の一部のように感じた。

その時、ふと、私が幼い頃に母と訪れたこの森のことを思い出した。母も、私と同じようにどんぐりを拾っていた。あの時の幸せな気持ちが、今も私の中に息づいている。世代を超えて受け継がれる思い出の瞬間が、まさにここにある。

「どう?どんぐりをたくさん集めたら、後で何をする?」私は子供たちに問いかけた。大輝は自信満々に答えた。「焼いて食べたい!それとも、飾りにしたい!」

その言葉を聞いて、私は笑顔になった。私たちの集めたどんぐりは、ただの果実ではなく、家族の絆を育むものになっていた。そして、どんぐりが持つ歴史や意味を子供たちに伝えることが、私の役目だと思った。

「じゃあ、帰ったら一緒に料理しようか。どんぐりを使った料理を作るために、調べてみよう!」私は子供たちに提案した。彼らの目が輝き、笑顔が広がる。自然を通じて、私たちの家族は一層強く結びついていると感じた。

その後、雑木林での楽しい時間は続いた。木々の間を駆け回り、どんぐりを拾い、自然の美しさを感じることができた。そして、私はこの場所が私たち家族にとって、特別な思い出の宝庫であることを再確認した。

やがて夕暮れが訪れ、雑木林の空がオレンジ色に染まる頃、私たちは集めたどんぐりを手に、幸せな気持ちで帰路についた。自然と家族が織り成す思い出の中で、どんぐりはいつまでも私たちの心に残る宝物となるだろう。






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