春秋花壇

露寒（つゆざむ）

露寒（つゆざむ）

秋の深まりとともに、朝の冷え込みが厳しくなり、霧が立ち込める日が続いていた。都心から少し離れた小さな町で、雅美は自分の仕事場の窓から外を眺めていた。彼女は近くの花屋で働いており、毎日のようにさまざまな花を手に取っては、その香りに包まれていた。

この季節、彼女の心をときめかせるのは、冷たい露に濡れた草花たちだった。透き通るような水滴が葉に留まり、まるで小さな宝石のように輝いている。雅美はその美しさに心を奪われながら、日々の仕事をこなしていた。

ある朝、彼女がいつものように花束を作っていると、ふとした瞬間、ドアのベルが鳴り響いた。振り向くと、見覚えのある顔が立っていた。翔太だった。彼は小学校の頃からの友人で、最近はずっと連絡を取っていなかった。

「久しぶり、雅美。元気にしてた？」

翔太は少し照れくさそうに笑いながら、店に入ってきた。彼の笑顔を見た瞬間、雅美の心に暖かい感情が湧き上がった。

「元気だよ。翔太も。最近はどうしてたの？」

「仕事が忙しくてね。まあ、何とかやってるよ。」

会話が弾む中で、雅美は彼の目に宿る懐かしさを感じた。二人は子供の頃、一緒に遊びながら夢を語り合った仲だった。しかし、年月が経つにつれて、彼の存在は徐々に遠のいていた。彼の訪問は、まるで運命が再び交差する瞬間のようだった。

その日、翔太は雅美の店でいくつかの花を買っていった。彼が選んだのは、秋の花々。金木犀やコスモス、そして、雅美が大好きな菊の花だった。

「これ、雅美のために選んだんだ。」

翔太は恥ずかしそうに言った。雅美はその言葉に心が高鳴った。彼の気持ちが少しでも自分に向いているのだろうかと思ったからだ。

それから数日間、翔太は何度も店に足を運んできた。毎回、彼は新しい花を買っていくのだが、どれも雅美が好きなもので満ちていた。二人は少しずつお互いの距離を縮め、昔の思い出を語り合うようになった。

ある寒い朝、雅美は店の裏で仕入れた花を整理していると、翔太が訪れた。彼の手には、色とりどりの秋の花が束ねられていた。

「これ、雅美に。」

彼は自信満々に花束を差し出した。雅美はその美しさに目を奪われ、思わず息を呑んだ。

「ありがとう、翔太。本当に素敵！」

彼女は花束を受け取ると、香りを楽しみながら顔をほころばせた。翔太も嬉しそうに微笑み返す。

「これを見ていると、昔のことを思い出すよ。二人で遊んでいたときのこと。」

「うん、私も。あの頃は楽しかったね。」

その瞬間、雅美の心の奥に温かな感情が芽生えた。翔太との思い出が、これからの未来に繋がっていくのではないかと感じた。

ある日の夕暮れ時、雅美は花屋の前で翔太を待っていた。彼との会話が楽しくて、会えるのが待ち遠しかった。しばらくして、翔太がやって来た。

「今日は少し特別なことをしようと思って。」

翔太は照れくさそうに言った。彼は手に持っていた小さな箱を差し出した。

「これ、雅美のために。」

雅美は驚いて箱を開けた。中には、彼が選んだ小さなブローチが入っていた。秋の葉っぱの形をした、美しいデザインのものだった。

「すごく素敵！ありがとう、翔太！」

彼女は心から感謝の気持ちを伝えた。翔太は照れ笑いを浮かべていたが、その目には真剣な思いが宿っていた。

「実は、雅美のことが好きなんだ。ずっと前から。」

雅美の心臓が高鳴った。彼の言葉が彼女の胸に響き、彼女の中で何かが目覚めた。これまでの思い出が、彼との未来を思い描くための糧になっていた。

「私も、翔太のことが好きだよ。」

その言葉が彼女の口から自然と漏れ出た。翔太の顔に広がる笑顔は、秋の夕暮れのように温かかった。二人の距離は、秋の空気のように優しく、そして深く繋がっていた。

露寒の季節、雅美と翔太は再び心を通わせ、愛を育んでいくことを決めた。冷たい風が二人の周りを包む中で、彼らの心は一つになっていた。