春秋花壇

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
563 / 779

寒露

しおりを挟む
寒露

10月8日、朝の光が窓から差し込む。今日は寒露、秋が深まる季節の到来を告げる日だ。昨夜の冷え込みを感じながら、私は目を覚ました。冷たい空気が部屋の中にも流れ込み、身を引き締める。カーテンを開けると、外は晴れ渡った青空と秋の穂が揺れる風景が広がっていた。

私はそろそろ起き上がり、朝食の準備に取り掛かる。食卓には、栗ご飯やかぼちゃの煮物が並べられた。母が作ってくれた料理は、秋の味覚を存分に感じられるものだ。食事をしながら、私はこの季節が大好きだと改めて感じる。食欲をそそる香りが、心を豊かにしてくれる。

食事を終えた後、外へ出ることにした。今日は散歩日和だ。寒露の季節、道端には草花が少しずつ色を変え、葉が散り始めている。冷たく澄んだ空気を感じながら、私は小道を歩き出した。

歩いていると、道の脇に小さな菊の花が咲いているのを見つけた。黄色い花びらが秋の日差しに輝き、無邪気に風に揺れている。私はその花をじっと見つめ、心が温かくなるのを感じた。これが秋の力なのだろう。

道を進むにつれて、風の冷たさが増していく。少し寒く感じるが、体が慣れてくると心地よさが広がる。ふと、子どもの頃に訪れた思い出の場所を思い出した。母と一緒にこの道を歩いたことがある。手をつないで、笑い声を響かせながら。

その思い出に浸っていると、急に雲が覆いかぶさり、日差しが隠れてしまった。薄暗くなり、冷たい風が一層身に染みる。私は少し急ぎ足で歩くことにした。

街を抜け、近くの公園にたどり着く。ここは、私のお気に入りの場所だ。公園の中央には、大きなイチョウの木がそびえ立ち、黄葉が始まっている。これからの季節、葉が落ちて地面を黄金色に染める姿を思い描きながら、私はその木の下に座り込む。

周りを見渡すと、他にも散歩を楽しむ人々がいる。子どもたちが走り回り、犬を連れた人々が楽しそうに会話をしている。私もその光景を楽しみながら、自然の中での静かなひとときを満喫する。

その時、突然、寒露の冷気が肌を刺すように感じた。体を震わせながら、私は立ち上がり、近くのベンチに座った。さっきまでの温かい日差しが恋しくなり、周囲の音が次第に遠く感じる。心の中にひんやりとした感覚が広がり、寂しさがこみ上げてきた。

周囲の景色をぼんやりと見つめながら、私はこの季節が持つ儚さを感じた。寒露は、秋の深まりと共に冬を迎える準備をする時期。自然は変化を続けていく。その変化は時に寂しさを伴うが、同時に美しさもある。

何か温かいものを求め、私は公園を後にすることにした。家へ戻る途中、近くのカフェに立ち寄り、ホットチョコレートを注文する。温かい飲み物を手に持つと、体がほっと温まる。カフェの窓から外を見ると、秋の風景が美しく広がっている。

ふと目に入ったのは、近くの小道を歩く老夫婦だった。手をつないでゆっくりと歩く姿に、心が温かくなる。何気ない日常の中に、愛と絆が宿っている。寒露の季節でも、そんな温もりを感じられる瞬間があることに気づかされた。

家に戻ると、母が栗ご飯を炊いて待っていた。今日は特別な日だと、栗をたくさん使った料理を用意してくれた。家族の温かさに包まれながら、私は食卓を囲むことができた。寒露の冷たい空気が感じられる中で、心が温まる瞬間が訪れる。

食事を終え、家族と過ごす時間が流れる。テレビの音や笑い声が響き、心地よい静寂が広がっていく。私は、この瞬間が永遠に続いてほしいと願った。寒露の冷たさが、温かい思い出を引き立てる。秋の訪れが、私の心に特別な感情を呼び起こす。

この季節、寒露は美しさと儚さを同時に感じさせてくれる。自然の変化の中に、愛や絆を見つけることができることに感謝しながら、私は明日を迎える準備をする。暖かい家族と共に、また新しい秋の日々を楽しみに。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

かあさんのつぶやき

春秋花壇
現代文学
あんなに美しかった母さんが年を取っていく。要介護一歩手前。そんなかあさんを息子は時にお世話し、時に距離を取る。ヤマアラシのジレンマを意識しながら。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

陽だまりの家

春秋花壇
現代文学
幸せな母子家庭、女ばかりの日常

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

処理中です...