春秋花壇

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スマホばかりタップしていたら 空を眺めることさえなくなった

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スマホばかりタップしていたら 空を眺めることさえなくなった

秋の夕暮れ、サクラはスマホを片手に大都会の雑踏を歩いていた。電車を待つ間も、仕事の合間も、ふとした瞬間に手がスマホに伸びる。通知が次々と鳴り、彼女の目は絶え間なくスクリーンに釘付けだった。メール、SNS、ニュース――絶え間なく情報が押し寄せ、サクラの頭の中はそれでいっぱいだ。

「ちょっと休もう…」

と駅前のカフェに座ったものの、気づけばまたスマホを手に取っていた。時間は次々と過ぎていく。ふと、彼女は自分がどれだけ長くスマホを見つめ続けているかに気づき、少しだけ罪悪感を覚えた。

「最近、空を見てないな…」

彼女はふと、昔のことを思い出した。子供の頃、夕暮れの空を眺めて、いろんな形の雲を見つけるのが好きだった。あの頃は、スマホもなければ時間に追われることもなく、ただ空を見上げる時間があった。

「でも今は、そんな暇なんてないか…」

そう自分に言い聞かせながら、再びスマホに目を落とす。だが、その瞬間、彼女の頭の中に小さな疑問がよぎる。「暇がないって、本当だろうか?」。スマホの中の情報に溺れ、目の前の世界を見失っているだけではないかと。彼女は心のどこかで、その事実を認めたくなかった。

その時、カフェの窓の向こうに、ふとした異変を感じた。空が、何か違って見える。曇りがちな秋の日だったが、雲の合間から美しい夕日が差し込み、空全体が赤とオレンジに染まっていた。思わず彼女はスマホを置き、窓の外に目を向けた。

「こんなに綺麗な空が広がってるなんて…」

いつの間にか、サクラはスマホを忘れ、目の前の空の景色に釘付けになっていた。高層ビルの合間に見える空には、筋雲が広がっている。それはまるで、誰かが筆で描いたような繊細な模様で、秋の風に優しく揺れていた。

「こんな雲、久しぶりに見たな…」

彼女は無意識のうちに、カメラアプリを立ち上げようとしたが、その手を止めた。この景色をスマホで撮影するのではなく、自分の目に焼き付けたかった。ずっとタップし続けていたスマホから、今この瞬間だけでも離れてみることが大切だと感じた。


サクラはカフェを出て、ゆっくりと歩き始めた。ビルの谷間を吹き抜ける秋風が、心地よく彼女の髪を揺らす。スマホをポケットにしまい、久しぶりに自分の足元ではなく、目の前に広がる景色を意識して歩く。

「こんなにも風が気持ちいいなんて、忘れてたな…」

筋雲がゆっくりと形を変えながら、空を流れていく。ふと立ち止まり、サクラは空に目を向けた。赤く染まる空は、刻一刻と色を変えていく。ビルの影に覆われた街の中、ほんのわずかに残った日光が反射して、ガラス窓に輝く夕日を映し出していた。

「そういえば、小さい頃は毎日のように空を見上げてたっけ…」

サクラの心に、幼い頃の記憶が蘇ってきた。学校の帰り道、母と手を繋いで、ふわりと漂う雲の形を一緒に見つけながら歩いた日々。あの頃は、時間がゆっくりと流れていた気がする。焦ることもなく、ただ目の前の景色を感じる余裕があった。

「大人になると、何でこんなに忙しいんだろう…」

いつからだろうか。サクラは、目の前の現実よりもスマホに映る世界に夢中になってしまっていた。仕事のメール、SNSの更新、ニュースのチェック。すべてが一瞬にして手元で手に入る便利な世界に、彼女の心は囚われていたのかもしれない。

もう一度、サクラは深呼吸をしてみた。秋の空気が胸の中に広がり、冷たいけれど心地よい感覚が広がる。この瞬間、自分が生きていることを感じた。そして、空を見上げる時間の大切さに気づいた。

「スマホもいいけど、やっぱり目の前の世界をちゃんと見なきゃね」

そう思いながら、サクラは歩き続けた。大都会のビルの谷間からは、もうすっかり夜の色が漂い始めていた。筋雲は、青紫に変わりつつある空を背景に、薄いシルエットだけを残して消えていこうとしている。

サクラは駅前の広場で足を止めた。人々が忙しそうに行き交う中で、ふと空を見上げる自分が少しだけ特別な存在に思えた。まるで、自分だけがこの美しい空の変化を独り占めしているような感覚。スマホをポケットに入れたまま、彼女はしばらくの間、その場所に立ち尽くしていた。

「たまには、こういう時間も必要だよね」

サクラの心の中に、小さな変化が生まれていた。これからは、スマホに時間を奪われるだけでなく、自分の目で見て感じる世界を大切にしていこう。そんな決意を胸に、彼女は再び歩き出した。

ビルの谷間から、秋色に染まった風が軽やかに吹き抜けていく。その風に乗って、サクラの心もまた軽やかに、少しだけ前向きに変わった気がした。






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