春秋花壇

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すじ雲

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すじ雲

秋の終わり、空は青く澄み渡り、時折すじ雲が流れていく。小さな町の片隅にある公園では、色づいた葉が風に舞っていた。公園のベンチに座るのは、18歳の若者、陽太(ようた)。彼はこの町に住む高校生で、毎日のようにここで時間を過ごしていた。最近、彼の心の中には、どうしようもない不安が渦巻いていた。

「将来、俺はどうなるんだろう…」

陽太はぼんやりと空を見上げた。すじ雲がまるで自分の心を映し出すかのように、まっすぐに伸びている。彼は、進学や就職のことを考えると胸が重くなってしまうのだ。周りの友人たちはそれぞれの夢を語る中で、彼だけは自分の進むべき道が見えなかった。

そんな陽太の心に、ある日、一つのアイデアが浮かんだ。それは、空の写真を撮ること。彼は幼い頃から空を眺めるのが好きだった。特に、雲の形や色の変化に心を奪われていた。ひときわ美しい瞬間をカメラに収めることで、少しでも自分を表現できるのではないかと思った。

彼は自分の古いカメラを持ち出し、毎日のように公園に通った。空を見上げ、さまざまな雲の表情を捉えることに夢中になった。すじ雲、入道雲、うろこ雲…それぞれの雲が持つ特性や、太陽の光に照らされる瞬間を逃さずに撮影した。

その日の夕方、陽太は特に美しいすじ雲を見つけた。夕焼けに染まる空に、細長く流れる雲が輝いている。彼はカメラを構え、シャッターを切った。「これだ…」心の中でつぶやいた。彼の中に、何かが少しずつ満ちていくのを感じた。

撮影を続けるうちに、陽太は自分の心が軽くなっていくのを実感した。雲を撮ることで、日常のストレスや不安が和らいでいく。そして、彼はその写真をSNSに投稿することに決めた。美しい空の景色が、他の人々にも何かを伝えられればいいと考えたからだ。

数日後、彼の投稿に反響があった。友人たちから「すごい!」「素敵な写真だね!」というコメントが寄せられた。陽太はその言葉に励まされ、ますます撮影に熱中した。自分が好きなことを通じて他の人とつながることができる。彼は少しずつ、自信を取り戻していった。

ある日の夕暮れ、いつもの公園で撮影をしていると、ひとりの少女が近づいてきた。彼女の名は春香(はるか)。同じ高校に通う同級生だった。陽太は彼女のことを知っていたが、話す機会はなかった。春香は彼の撮っている空を見上げ、「とてもきれいな写真だね」と言った。

陽太は照れくさそうに微笑み、「ありがとう。雲の形が好きで、いろいろ撮ってるんだ」と返した。彼は春香と話すことができて、心が躍るような気持ちになった。

それから二人は、公園でよく会うようになった。春香もまた、空を見上げるのが好きで、彼女自身も絵を描くことに夢中だった。お互いの趣味について話し合う中で、彼らの関係は少しずつ深まっていった。

秋が深まるにつれ、陽太は春香との時間が心の支えになっていることに気づいた。彼女の明るい笑顔や、同じ空を見上げることができる幸せが、彼の心を満たしていた。春香と一緒にいると、将来への不安が薄れていくのを感じた。

しかし、冬が近づくにつれ、陽太の心には新たな不安が生まれた。春香は美術大学を目指していることを知っていたが、彼自身はどこに進むべきかまだ決められていなかった。彼女が夢を叶えるために進んでいく中、自分は何をしているのだろうかと悩み始めた。

ある日、陽太は春香に自分の気持ちを打ち明けることにした。「春香、俺、まだ自分の進路が決まってないんだ…君のように夢を持っているわけでもなくて…」彼の言葉には不安と焦りがにじんでいた。

春香はしばらく黙って彼の話を聞いた後、優しく微笑んだ。「陽太、焦らなくても大丈夫だよ。みんな自分のペースで進んでいくから。私だって、まだ自信がない部分もあるし…それでも、楽しみながら進んでいるよ。」

その言葉に、陽太は少し安心した。春香が彼を理解してくれることに、心が温かくなった。彼女は自分自身の不安も抱えていることを知り、彼らの関係はより深まった。

冬が近づく頃、陽太はひとつの決意をする。それは、彼自身の夢を見つけること。彼は春香と共に空を見上げ、すじ雲を追いかけることで、少しずつ自分の進むべき道を探すことにした。

その夜、陽太は自分の部屋で窓を開け、寒い空気を感じながら外を見上げた。星が輝く空には、無数の雲が流れていた。彼は静かに祈った。「どうか、俺の道を見つけさせてください。」

そして、すじ雲が流れるように、陽太の心もまた自由に羽ばたいていくことを願った。彼はこれからの未来に希望を抱きながら、新たな一歩を踏み出す準備をしていた。冬の空は冷たくても、彼の心の中には温かな夢が育ち始めていた。








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