春秋花壇

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秋分の日の約束

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秋分の日の約束

秋分の日が近づくと、田舎の小さな村はいつもとは違った静けさに包まれる。昼と夜が同じ長さになるこの日は、古くから祖先を敬う日として大切にされてきた。人々はお墓を掃除し、家族と共に静かに過ごす。けれど、12歳の美咲にとっては、特別な日でもあった。

「秋分の日には絶対に忘れないでね。」
そう言ったのは、去年この世を去った祖母だった。美咲は祖母と過ごした時間を思い返し、約束を守ろうと決意していた。

祖母が住んでいたのは村の外れにある古い家。美咲は秋分の日が来るたび、祖母に手を引かれ、その家に向かった。田んぼの道を抜け、山の中腹にある家に到着する頃には、陽が少しずつ傾き始めていた。

祖母は毎年、秋分の日に彼岸花を摘んで、祭壇に飾る習慣があった。彼岸花は真っ赤な花びらを広げ、秋の深まりを告げるように咲いていた。美咲にとって、彼岸花は祖母そのもののように感じられた。その強さ、そして儚さが、祖母の生き方と重なる。

祖母が亡くなってから初めての秋分の日、美咲は一人で彼岸花を摘みに行く決意をした。山道を歩きながら、祖母との思い出が次々と浮かんできた。昔は祖母の大きな手にしっかりと握られていた自分の手。今、その手はもうどこにもない。

「どうして亡くなっちゃったの、ばあちゃん……」美咲は小さな声でつぶやいた。

ふと、前方に一輪の真っ赤な彼岸花が目に入った。祖母が毎年摘んでいたものと同じ場所に咲いている。美咲はその花をじっと見つめ、祖母との約束を守るため、そっと手を伸ばした。

その瞬間、風が吹き抜け、まるで祖母が背中を押してくれたような感覚があった。美咲は心の中で祖母に語りかけた。「ばあちゃん、ちゃんと来たよ。今年もあなたが好きだった彼岸花を持ってくるよ。」

美咲は花を摘み、祖母の家へと足早に向かった。家の中は静かで、かつてのぬくもりはもうなかったが、そこに祖母の気配が感じられるような気がした。祭壇の前に立ち、彼岸花をそっと供える。

「ばあちゃん、見てくれてる?」美咲は静かに問いかけた。

その時、遠くから鈴の音が聞こえた。それはまるで祖母が美咲に答えているかのようだった。不思議と、心の中に温かな感覚が広がり、涙が自然とこぼれた。

夕暮れが近づくと、空はオレンジ色に染まり、夜の訪れを告げ始めた。昼と夜が均等に分かれるこの特別な日に、美咲は祖母とのつながりを再び感じることができた。季節が巡る中で、彼女は一つの約束を守り通し、そして新たな一歩を踏み出すことができたのだ。

これからも秋分の日が来るたび、美咲は祖母との約束を守り続けるだろう。そして、その度に、祖母のぬくもりを感じながら、強く優しく生きていくことを誓うのだ。

秋の風がまた吹き抜け、山々を染める彼岸花が美しく揺れていた。








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