春秋花壇

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百舌鳥

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「百舌鳥」

空が薄曇りの日曜日、俺は久しぶりに自転車で川沿いの公園まで足を伸ばしていた。秋の風が心地よく、季節の変わり目を肌で感じる。仕事が忙しく、ここしばらく外に出る余裕がなかったが、今日は特に予定もなく、ただ気ままに一日を過ごすつもりだった。

公園に到着し、ベンチに腰を下ろすと、遠くで鳥の鳴き声が聞こえた。ふと、目をやると小さな鳥が枝に止まっている。その体は茶色がかっていて、目元に黒い模様が入っている。百舌鳥だ。

「久しぶりに見たな……」

百舌鳥は、その名の通り、さまざまな鳴き声を真似することができる鳥だ。子供のころ、よくこの鳥を見かけては、母に教えてもらったことを思い出す。彼女はいつも百舌鳥のことを「利口な鳥」と褒めていた。

百舌鳥はしばらくの間、枝にとまったままじっとしていたが、やがて突然、鋭い鳴き声を上げて飛び立った。その後を目で追ううちに、ふとある感情が胸に湧き上がった。

"なぜ、こんなに自由に空を飛べるのだろうか?"

俺はその瞬間、まるで百舌鳥と自分を重ねて考えていることに気づいた。自由に飛び回るその姿に対して、自分は何かに囚われているような気がした。

最近、仕事でのストレスが募っていた。毎日同じことの繰り返し、上司からのプレッシャー、終わらない残業。心のどこかで、このままでいいのかと思いつつも、逃げ出す勇気もないまま、ただ日々を消費しているようだった。百舌鳥のように自由に、どこへでも飛び立てる自分がいれば、どれだけ楽だろうかと考える。

そんなことをぼんやりと思いながら、再び鳥の声に耳を傾けた。だがその声は、百舌鳥のものとは少し違っていた。もっとかすかで、切ない響きがする。それは、公園の端に立っている古い木の近くから聞こえてくるようだった。

俺はその木に近づくと、そこには一羽の傷ついた百舌鳥が横たわっていた。どうやら、木の枝から落ちてしまったのかもしれない。羽は不自然に広がっていて、もう飛ぶことはできそうになかった。

「おい、大丈夫か?」

思わず声をかけたが、鳥が返事をするはずもない。俺はどうするべきか迷い、スマホを取り出して検索を始めた。だが、助ける方法がすぐに見つかるわけではない。救護センターに連絡を取るべきかとも思ったが、その鳥がこのまま助かるかどうかも分からない。

俺はただその場にしゃがみ込み、百舌鳥を見つめ続けた。

すると、不意に母の言葉が脳裏に蘇った。

「百舌鳥は、ね、いろんな声を覚えて、他の鳥の真似をするの。でも、自分の声を出すときは、いつだって強く、しっかりと響かせるのよ」

あの頃、母は元気で、俺は無邪気にその話を聞いていた。しかし今、その言葉には何かもっと深い意味があるような気がした。百舌鳥は他の誰かの真似をすることができるが、結局は自分自身の声を持っている。それは、俺にも言えることなのかもしれない。

俺は、他人の期待に応えようと必死になって、自分の声を忘れてしまっていたのではないか?

百舌鳥はもう動かなくなっていた。小さな命が静かに消えた瞬間だった。胸の中でわずかな痛みが広がるが、その一方で、ある種の覚悟も芽生え始めていた。

「俺も、自分の声を取り戻さなきゃな……」

そう思いながら、百舌鳥を静かに見送った。

俺はその場に立ち上がり、川の方へ歩き出した。秋風が吹き抜け、遠くの木々が揺れる音が耳に心地よい。まるで、母や百舌鳥が見守ってくれているかのようだった。

これからどう進んでいくべきか、まだ具体的な答えはない。だが、少なくとも、俺は自分の声を取り戻すために歩き始めたのだと感じていた。

百舌鳥が最後に残してくれたのは、自由に飛び回ることではなく、自分自身の声を見つけ出すこと。その意味に気づいた瞬間、俺の胸の中には少しずつ新しい希望が芽生え始めていた。






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