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柚子色の季節

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「柚子色の季節」

秋の終わり、庭の柚子の木が黄色く色づいてきた。まだ青々としていた果実が少しずつ鮮やかな黄色に変わり、庭に柔らかな光を反射させる。柚子の木は昔から家にあり、祖父の代からずっと見守られてきた。この木を見ると、祖父が柚子を大切にしていた姿を思い出し、家族にとって特別な存在となっている。

柚子の皮はごつごつとしていて、まるで思春期の男の子の顔のようだと、祖母はよく笑いながら言っていた。「まだ未熟で、少し不器用で、でも中身はしっかり育っているのよね」と。まるで、その言葉は孫の陽太を見つめているようだった。

陽太は15歳。思春期の真っ只中にいる少年だ。彼は学校から帰ると、庭のベンチに座ってぼんやりと柚子の木を眺めることが多かった。家の中では母が忙しく働き、父はあまり家にいない。家族との会話も少なくなり、陽太は心のどこかで何かを探していた。

その日も、陽太は学校からの帰り道に、心のモヤモヤを抱えながら家に帰ってきた。彼のクラスメートたちは、スポーツや恋愛、勉強のことで盛り上がっていたが、陽太はどれにも本気で興味が持てなかった。ただ毎日が、何か物足りなく、漠然とした孤独感に包まれていた。

家に帰ると、いつものように柚子の木の下に座った。黄色く色づいた果実が、まるで何かを訴えるように輝いている。「何でこんなに真っ黄色になれるんだ?」と陽太は独り言のように呟いた。

「お前も、いずれ黄色くなるんだよ」と、後ろから祖母の声がした。

驚いて振り返ると、祖母がいつもの穏やかな笑顔で立っていた。祖母は庭仕事の合間に、いつも陽太を見守っていた。彼女は、無口で内向的な孫のことを心配しながらも、無理に何かを聞き出すことはしなかった。

「柚子はね、ずっと青いままじゃないんだよ。ちゃんと自分の時期が来ると、こうやって黄色くなるのさ。人も同じだよ、陽太。今はまだ自分がどんな色になるか分からなくても、その時が来れば、ちゃんと自分の色が見えてくるさ」

陽太は、祖母の言葉に少しだけ心が温かくなった。けれども、そのまま黙って柚子の木を見つめ続けた。

「お前、最近元気ないね」と祖母が続ける。

「別に、そんなことないよ。ただ、何もかもが分からないんだ。学校も友達も、俺が何をしたいのかも」

祖母は静かに頷いた。そして、柚子の木のそばに立ち、そっと一つの柚子を手に取った。

「この柚子も、何かを考えてるのかもしれないね。青い時は、ただの未熟な果実に見える。でも、いずれこの皮が立派に黄色くなって、使い道がたくさん出てくる。お茶にしても、料理に使っても、香りを楽しむことだってできる。柚子自身も、きっと自分がどんな風に役立つかは分からないけど、それでも自分の色を持つんだよ」

陽太は、その柚子を見つめながら、自分の中で何かが少しずつ変わっていくのを感じた。自分も、今は何も分からないけれど、何かを見つける時が来るかもしれない。そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなった。

「お前も、いつか自分の色が見つかるさ。焦らずに、その時を待ちなさい」

祖母の言葉に背中を押されるように、陽太は頷いた。そして、もう一度柚子の木を見上げた。以前よりも少し明るく感じられる黄色の果実たちが、まるで陽太の未来を祝福しているかのように輝いていた。

その日の夕暮れ、陽太は少しだけ歩く速度を上げて、家の中へ戻った。








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