春秋花壇

あなたと二人で梨狩り

あなたと二人で梨狩り

秋の訪れを感じさせる涼しい風が吹き始めた頃、私は彼との約束を胸に抱き、車で梨園へと向かっていた。約束の時間より少し早めに到着した私は、車を降りて見渡す。どこまでも広がる梨の木々は、甘い香りを漂わせ、黄色に輝く果実が陽の光を浴びて輝いていた。

梨園の入口で、私は少し緊張した面持ちで彼を待った。彼の名前は優樹。職場の同僚であり、いつも冷静でクールな彼に、私はずっと憧れていた。普段は仕事のことで話すことが多い私たちだったが、ある日、ひょんなことから梨が好きだという話になり、勢いで「一緒に梨狩りに行こうよ」と誘ったのだ。まさか本当に実現するとは思ってもいなかった。

約束の時間になると、優樹が少し遅れてやって来た。カジュアルな服装に、いつもとは違うリラックスした表情が新鮮で、思わず胸が高鳴った。「ごめん、遅くなって」と彼が微笑むと、私は「あ、全然大丈夫！」と、少し慌てて返事をした。

梨園のスタッフに案内されながら、私たちは梨の木々の間を進んでいった。見上げると、大きな梨が鈴なりになっている。優樹は慣れた手つきで、次々と梨をもいでいく。私も負けじと手を伸ばすが、上の方にある梨には届かない。何度かジャンプしてみるが、うまく取れずにいると、優樹が笑いながら私に近づいてきた。

「ほら、手伝ってあげるよ。」そう言うと、彼は私の背中にそっと手を添え、私が狙っていた梨を一緒に取ってくれた。彼の温かい手が触れた瞬間、心臓がドキッとする。梨を手にしてからも、しばらくその感覚が消えずに残った。

「ありがとう」と小さな声で礼を言うと、優樹は「いいえ、どういたしまして」と柔らかく返してくれた。その穏やかな笑顔に、またしても胸が高鳴る。こうして二人で梨を採る時間が、なんだかとても特別なものに思えてきた。

その後も、私たちは互いに声をかけ合いながら、たくさんの梨をもいだ。陽射しは少しずつ傾き、梨園は柔らかな夕日に包まれていた。私は優樹と並んで歩きながら、「ねえ、知ってる？梨って健康にすごく良いんだって」と話しかけた。

「へえ、そうなんだ」と優樹は興味深げに聞いてくれる。「そう、例えばむくみの予防や便秘の改善、肌の調子を整える効果もあるらしいよ。それに、梨の皮にも美容に良い成分が含まれているんだって。だから、皮ごと食べるといいんだよ。」私は自分の知識を披露するように言ったが、優樹は少し驚いたように目を見開き、笑いながら「詳しいね、さすが梨好きだな」と感心した様子で返してくれた。

その時、優樹が急に真剣な顔になり、私に問いかけた。「梨って、誰かにおすすめするほど好きなわけ？」その言葉に少し戸惑いながらも、私は頷いた。「うん、なんだか食べると元気になる気がして…あと、美容に良いって聞いたらやっぱり積極的に食べたくなるしね。」

「なるほど、確かに君にはぴったりだね。」優樹のその言葉に、またしても心臓が跳ねる。何気ない会話だったはずなのに、彼の視線や言葉がどうしても私の気持ちを揺さぶる。少しだけ視線を逸らしながらも、私は再び彼に向き合った。

その後、梨園のベンチに腰を下ろして、採った梨を一つ一つ丁寧に拭いていく。優樹が手に持った梨を私に差し出して、「よかったら、皮ごと一緒に食べてみようか」と提案してくれた。私は笑顔で頷き、二人で梨にかぶりつく。瑞々しい果汁が口いっぱいに広がり、ほのかな甘さが心地よい。

「美味しいね」と私が言うと、優樹も同意して頷いた。「うん、美味しい。君のおすすめ通り、皮ごと食べると特別な感じがするな。」そう言いながら彼は私を見つめ、その視線の温かさに、私は自然と顔が赤くなるのを感じた。

夕陽が完全に沈む頃、私たちは梨園を後にした。帰り道、車の中で優樹がふと呟いた。「今日はありがとう。君のおかげで、梨の新しい魅力に気づけた気がする。」

「こちらこそ、ありがとう。私も楽しかったよ。」言葉を交わすたびに、心の距離が少しずつ近づいていくのを感じる。梨狩りの出来事が、ただの秋の思い出ではなく、特別なものになったことに気づいた。

車が駅に到着し、優樹が降り際に「また、こうして一緒に出かけられるといいな」と言った。その一言が、私にとって今日一番の喜びだった。彼との時間がこんなに心地よく、そして大切に感じられるなんて、予想もしていなかった。

車のドアが閉まり、彼が歩き出すのを見送った後、私は車の中で一人微笑んだ。梨の香りがまだ残る手を見つめながら、私はこの想いを大切にしようと心に誓った。次の季節が来る頃には、もっと近くに感じられるように──。そんな希望を胸に、私はアクセルを踏み込んだ。