春秋花壇

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「串揚げ屋でのひととき」

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「串揚げ屋でのひととき」

秋の夜、涼しい風が街を吹き抜ける中、玲子は彼氏の雅人と共に串揚げ屋さんに入った。店内は木の温もりが感じられ、落ち着いた雰囲気の中で、美味しい串揚げを楽しむためのデートが始まった。

「今日はいいお店に来たね。どれも美味しそうだね」
雅人はメニューを見ながら目を輝かせていた。

「そうね、楽しみにしてたの。串揚げの種類も豊富だし、色々試してみようね」
玲子もにこやかに応じ、メニューを見て注文を決めた。しばらくして、串揚げが次々とテーブルに運ばれてきた。色とりどりの串に、玲子は心からの笑顔を浮かべていた。

しかし、その時、店員が運んできたものの中に、ひときわ目を引くものがあった。それは、松茸の串揚げだった。秋の季節にぴったりの高級食材である松茸が、串揚げの一品として提供されるとは、玲子も驚いた。

「わぁ、松茸の串揚げがあるなんて。こんなこともあるんだね」
玲子は、できるだけ平静を装って言った。心の中では、予想もしなかった状況に対する動揺が広がっていた。彼氏とはまだそのステップに進んでいないにもかかわらず、こうして目の前に松茸が出てくることが、彼女にとっては微妙な意味を持っていた。

雅人は松茸の串揚げを見て、興奮気味に言った。「これ、絶対美味しいだろうな。頼んでみて良かったね」

「うん、そうだね。せっかくのお料理だし、美味しくいただこうね」
玲子は冷静に応じようとしたが、内心では心が乱れていた。松茸を食べることで何かが変わるわけではないのに、なぜかこの状況が彼女を焦らせた。何かが誤解されるのではないか、彼に対して誤解を与えてしまうのではないかと不安が募った。

店内の明るい灯りの下、松茸の串揚げが輝いて見えた。玲子はスマートフォンを取り出し、「これ、美味しそうだね。写真撮っとこう」と言って、松茸の串揚げを撮影した。彼女の手は微かに震えていたが、雅人には気づかれないように注意深く振る舞った。

「美味しそうな写真が撮れたね」
雅人はカメラのシャッター音に反応し、笑顔で言った。玲子も笑顔を返しながら、松茸の串揚げを一口食べた。高級な松茸の香りと旨味が口いっぱいに広がり、確かに美味しいのだが、その味わいに集中することができなかった。

内心では、焦りや怒りが渦巻いていた。まるで、自分の感情が松茸の香りと一緒に溶け込んでしまいそうな気がしていた。どうしてこんなにも不安を感じるのか、自分でもよくわからなかった。ただ、彼氏に対して自然な態度を取ることが、ますます難しくなっているように感じられた。

「どうしたの?何か気になることでもあるの?」
雅人が心配そうに聞いてきた。玲子は慌てて笑顔を作り、心の中の不安を隠すようにした。

「ううん、何でもないよ。ただ、少し考え事をしていたの」
玲子はそう答えたが、その言葉には少しだけ虚しさが含まれていた。

結局、松茸の串揚げは美味しくいただくことができたが、その日のディナーは玲子にとっては心の整理がつかない一夜となった。彼女は自分の感情を整理するために、帰り道に少しの間、静かに歩きながら考え込んでいた。

「何でこんなに焦ってしまったんだろう」と、玲子は心の中で自問自答した。その日の出来事が、彼女の中で何かを変えたのかもしれない。彼女は、これからどのように自分の気持ちと向き合っていくべきかを考えながら、その夜の帰路を辿った。









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