春秋花壇

重陽の節句

重陽の節句

9月9日、秋の空気が心地よく、風に乗って金木犀の香りが漂うこの日、村人たちは「重陽の節句」を迎えるために準備を整えていた。古くから伝わるこの節句は、五節句の一つで、また「菊の節句」とも呼ばれる。かつては旧暦に従って盛大に祝われたこの日も、現代ではあまり馴染みがないが、昔ながらの風習を守りたいと願う村人たちにとっては大切な行事であった。

村の広場には、菊の花が咲き誇る大きな飾り付けが施され、菊の花の香りが秋の空気と溶け合っていた。広場の中心には、色とりどりの菊の花が華やかに飾られ、その周りには栗や山菜で作られたごちそうが並べられている。これからの無病息災と長寿を願うために、さまざまな料理が用意されていた。

村の小さな家に住む少女、ゆいは、この日を心待ちにしていた。彼女の家族は代々、この節句を大切にしており、彼女もその伝統を受け継いでいた。今朝、ゆいはおばあちゃんと一緒に菊の花を摘み、栗を茹で、そして特製の菊酒を準備する手伝いをしていた。

「ゆいちゃん、手伝ってくれてありがとう。これで今年も重陽の節句をきちんと迎えられるわ」
おばあちゃんは優しく微笑みながら、ゆいの手をしっかりと握った。
「おばあちゃん、私も早く菊酒を飲みたいな。みんなで祝うのが楽しみ！」
ゆいはわくわくしながら言った。

お昼近くになると、村人たちは広場に集まり始めた。大きなテーブルには、栗ご飯やきのこ、山菜の煮物、そして菊の花を使った美しい料理が並んでいた。菊酒の香りが立ち込め、村人たちはそれぞれの家族と共に席に着いた。

「重陽の節句を迎えるのは、こうして家族や友人と一緒に過ごせることが一番の幸せだね」
村の長老が話すと、皆がうなずきながら菊酒で乾杯した。
「今年も無病息災で過ごせますように」
その言葉に、皆が同時に「乾杯！」と声を合わせた。

ゆいは、友達と一緒に楽しそうに料理を取り分けたり、菊の花を見て回ったりしていた。おばあちゃんが、今年も無事にこの日を迎えられたことを感謝しながら、ゆいにこう言った。
「重陽の節句は、ただのお祭りじゃないわ。この日を迎えることで、私たちの健康や幸せを願い、家族やコミュニティの絆を深める大切な日なのよ」
「うん、おばあちゃん。私もこの日が大好き」
ゆいはにっこり笑って応えた。

午後になると、村の広場で伝統的なゲームや歌が始まった。菊の花を使った装飾を施した屋台では、子どもたちが楽しそうに走り回り、大人たちは昔の歌を歌いながら楽しんでいた。秋の陽光の中、村全体が温かい雰囲気に包まれていた。

「ゆいちゃん、ちょっと来て。おばあちゃんが見せたいものがあるの」
おばあちゃんが呼びかけると、ゆいは急いで駆け寄った。おばあちゃんは、家の裏庭にある大きな古い桜の木の下にゆいを連れて行った。

「この桜の木も、昔からこの村を見守ってきたのよ。重陽の節句にこうしてみんなが集まるのも、この木のおかげなんだって」
おばあちゃんは、木の下で一緒に座りながら言った。
「この木も、重陽の節句のように私たちを見守り、健康と幸せを祈っているの」
ゆいはその言葉を聞いて、桜の木に静かに手を触れた。

その夜、村の広場では灯りがともされ、幻想的な雰囲気の中で祭りが続いた。菊の花が灯りに照らされ、まるで星が降り注ぐかのような美しい光景が広がっていた。ゆいとその家族、村の人々は、この特別な日が終わるのを惜しみながら、心から楽しんでいた。

「重陽の節句は、私たちにとってとても大切な日。これからもずっと、こうしてお祝いしていきたいわね」
おばあちゃんの言葉に、ゆいは静かに頷いた。
「うん、私もそう思う。ずっとずっと続けていこうね」

夜空に浮かぶ満月の下、村人たちは明日のことを考えながら、温かい光の中で心を通わせていた。重陽の節句がもたらす幸せと安らぎのひとときを、大切にしながら。