春秋花壇

春秋花壇

春秋花壇

春と秋の季節がゆっくりと移り変わる田舎の村に、一つの古びた花壇があった。この花壇は、かつて村人たちの手によって手入れされ、春には色とりどりの花が咲き乱れ、秋には紅葉した葉が美しく舞い散る場所だった。村人たちは「春秋花壇」と呼び、その四季折々の美しさを愛していた。しかし、いつからかその花壇は誰も近づかなくなり、朽ち果てたまま放置されていた。

花壇が放置された理由は、その花壇にまつわる不気味な出来事が原因だった。

20年前、村である一家が奇妙な失踪を遂げた。その一家は、春秋花壇を手入れしていたことで有名だったが、ある日を境に誰も姿を見せなくなった。家の中には生活の痕跡が残されていたが、家族の姿はどこにもなく、村人たちは「花壇が一家を飲み込んだ」と囁くようになった。

失踪事件の後、村人たちは花壇を避けるようになり、次第にその存在は忘れ去られていった。しかし、花壇は今でも残り、枯れ果てた花や雑草が絡みつくその姿は、かつての美しさを失っていた。

ある日、東京から引っ越してきた若い夫婦が村にやってきた。彼らは自然豊かな田舎での生活を求め、この村に家を建てることを決めた。そして、周囲の景色を整えるため、偶然にも春秋花壇を手入れし始めたのだ。

夫の浩二は、花壇を再び美しく蘇らせようと決意し、妻の美咲と共に毎日花壇に通い、草を刈り、花を植えていった。村の老人たちは彼らを心配し、花壇には近づかないようにと忠告したが、夫婦は聞き入れなかった。

花壇は徐々にその姿を取り戻し、春には再び美しい花が咲き誇り始めた。しかし、それと同時に、夫婦に奇妙な現象が起こり始めた。

ある晩、美咲が庭を見回りに出ると、花壇の中に立つ人影を見つけた。驚いて近づくと、その影はまるで霧のように消えてしまった。美咲は浩二に話したが、彼は「ただの見間違いだろう」と取り合わなかった。しかし、次の日から浩二も異様な現象に気づき始めた。

夜中に聞こえる足音、誰もいないはずの花壇から響くかすかな囁き声。さらには、花壇の花がまるで人の顔を模したかのように、奇怪な形に変わり始めた。

次第に夫婦の間にも不和が生じ、夜になると二人とも悪夢にうなされるようになった。美咲はとうとう耐えきれなくなり、村の老人たちに助けを求めた。

老人たちは言った。「あの花壇は、かつて家族を飲み込んだ場所だ。手を入れることで、彼らの魂が安らぐことなく彷徨っているのだ」と。

恐怖に震えた夫婦は、急いで村を離れる決意をした。しかし、最後に花壇を一目見ようと戻ったその時、花壇の中から何かが這い出てくるのを見た。それは、20年前に消えた一家の姿だった。彼らは無言で夫婦を見つめ、その姿は次第に花壇の花々と一体化していった。

逃げ出すように村を去った夫婦の姿を見送る村人たちは、花壇が再び静かに朽ち果てていくのを見守るしかなかった。

そして春秋花壇は、再び誰も近づかなくなり、暗い噂と共に忘れ去られていった。だが、夜が更けると、風に乗ってどこからともなく囁き声が聞こえることがある。それは、花壇に眠る家族の霊が、まだこの世に未練を残している証なのかもしれない。