春秋花壇

夏のSF

夏のSF

真夏のある日、地球の上空に突如として巨大な円盤状の宇宙船が現れた。円盤は、街のど真ん中、夜空の月のように静かに浮かんでいた。人々は恐怖と興奮に包まれ、街中が騒然とした。

その宇宙船が現れた理由は不明だったが、政府はすぐに対策を講じ、国連を通じて各国との連携を図った。しかし、宇宙船は何の動きも見せず、ただそこに存在していた。その奇妙な状況は、次第に日常の一部となり、人々は宇宙船を眺めながらも日々の生活を続けていた。

そんな中、ある高校生の青年、タクミは、誰もが無視する事実に気づいてしまった。宇宙船が出現してからというもの、人々の行動パターンが変化しているのだ。例えば、いつも賑わっていた夏の海岸は閑散とし、夜になっても街は静まり返っていた。しかも、皆が同じように無表情で、感情を失っているかのように見えた。

タクミは、宇宙船と人々の異常な変化には何か関係があるのではないかと考えた。彼は街を見下ろす丘の上にある古い天文台に向かうことにした。天文台には、タクミの祖父が遺した様々な天文機器が置かれていた。

天文台にたどり着くと、タクミは望遠鏡を使って宇宙船を詳しく観察し始めた。巨大な円盤の表面には、不規則に配置された無数の小さな穴が見えた。それらの穴は、まるで何かを吸い込んでいるかのように振動していた。

その瞬間、タクミの脳裏に閃いた考えがあった。「まさか…人間の感情を吸い取っているのか？」

この仮説を確かめるために、タクミは町へ戻り、街中で感じられる異様な静けさに目を向けた。人々の笑顔が消え、活気が失われているのは、宇宙船の仕業なのだろうか？そして、その理由とは？

タクミは独自に調査を進める中で、驚くべき事実を突き止めた。政府はすでに宇宙船の正体を把握しており、それを機密情報として隠していたのだ。宇宙船は遠く離れた惑星からやって来た知的生命体が操縦しており、彼らは地球の感情エネルギーを採取しているらしい。彼らの星は感情が枯渇し、絶望的な状況にあるため、地球から感情を吸い取ることで自らの文明を救おうとしているのだという。

だが、タクミはその情報に驚愕しつつも、違和感を覚えた。「感情を吸い取るだけで済むのか？ もし彼らが地球全体の感情を奪ってしまったら、俺たちはどうなる？」

タクミはこのままではいけないと思い、祖父の遺した天文機器を使って、宇宙船に向けて信号を送ることを決意した。信号の内容はシンプルだった。「話し合いを求む」というメッセージを繰り返し送信したのだ。

何度も試みた末、ついに宇宙船からの反応が返ってきた。タクミの目の前に、宇宙船内部の映像が映し出された。そこには、タクミと同じ年頃の少年が立っていた。その少年は、タクミに向けて手を伸ばし、微笑んだ。

「君たちの感情が必要なんだ。だけど、僕たちは君たちを害するつもりはない。ただ、協力が必要なんだ」と少年は語った。

タクミは一瞬戸惑ったが、続けて言った。「協力するなら、地球の感情を全部奪うのではなく、共存する方法を考えてほしい。僕たちは感情を失えば、生きていけない。」

少年はしばらく考え込み、そして頷いた。「分かった。君たちの感情をすべて奪うことは避けよう。共存できる方法を模索しよう。」

その後、宇宙船は地球から感情エネルギーを吸収する方法を調整し、地球人の感情が枯渇しないようにした。街には再び活気が戻り、人々は笑顔を取り戻した。

タクミは、その後も天文台から宇宙船と連絡を取り続け、地球と遠い惑星の間に橋をかける役割を果たすこととなった。真夏のあの日、宇宙船が現れたことで、タクミの人生は大きく変わったが、それは彼と地球にとって、新たな希望の始まりでもあった。