春秋花壇

蒙霧升降(もうむしょうこう)

第三十九候　立秋　末候

蒙霧升降(もうむしょうこう)
8月18～22日頃
濃い霧が立ち込める

霧をまとう幻想的な初秋の朝

夏の暑さが少しずつ和らぎ、秋の気配が感じられる頃、早朝には幻想的な霧が立ち込める様子を表しています。幻想的な霧の風景は、私たちの心を癒し、自然の神秘を感じさせてくれる

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立秋の末候、蒙霧升降の頃、朝の空気は冷んやりと肌に触れ、夏の暑さは徐々に後退していく。霧が大地を覆い、町全体がまるで夢の中にいるかのように静寂に包まれていた。

その朝、里山の小さな村に住む少女、菜々美（ななみ）は、いつもより早く目を覚ました。窓の外を見て、霧が一面に広がっているのを目にした彼女は、心が踊った。菜々美にとって、霧は特別な存在だった。それは、亡くなった祖母がよく語ってくれた神話の世界と現実を結びつけるものであり、霧の中に何か神秘的なものが隠れていると信じていたからだ。

祖母が生前語ってくれた物語には、霧の中でしか会えない妖精や、山奥にひっそりと棲む霧の精霊が登場するものが多かった。その物語を聞くたびに、菜々美はいつかその霧の世界に足を踏み入れたいと願っていた。

菜々美はそっと家を出て、霧の中へと歩みを進めた。朝露に濡れた草むらを踏みしめながら、彼女の周囲はぼんやりとした白い世界に包まれていた。遠くの木々はぼんやりとした影となり、普段の見慣れた風景もまるで異世界のように感じられた。

「今日こそ、霧の精霊に会えるかもしれない…」

菜々美はそう呟きながら、さらに奥へと進んでいった。霧の中を進むうちに、彼女の心はますます期待で高鳴った。何かが彼女を引き寄せているような感覚に襲われ、菜々美は無意識のうちにその感覚に従って歩みを進めていった。

しばらくすると、菜々美は村の裏山の入り口にたどり着いた。ここは普段は訪れない場所だったが、その日は何故か心惹かれるものがあった。霧の中で見え隠れする木々の間を抜けていくと、突然、前方に小さな泉が現れた。

泉の周りには、色とりどりの花々が咲き乱れ、その中でも特に目を引いたのは、真っ白な霧に包まれたかのように見える一輪の白百合だった。その花を見た瞬間、菜々美は息を呑んだ。祖母が話してくれた霧の精霊が、この花の中に宿っているような気がしたのだ。

「これは…」

菜々美はそっとその白百合に手を伸ばした。その瞬間、霧がふわりと動き、まるで白いヴェールが剥がれるように、霧の中から一人の美しい女性が現れた。彼女の姿は透き通るようで、まるで霧そのものが形をとったかのようだった。

「あなたは…霧の精霊？」

菜々美は恐る恐る尋ねた。女性は優しく微笑み、静かに頷いた。

「そうです、菜々美。私は霧の精霊。あなたが私を見つけてくれるのを待っていました」

その言葉に、菜々美の胸は高鳴った。祖母の物語が現実となった瞬間だった。

霧の精霊は、菜々美に語り始めた。霧が立ち込めるこの時期、自然の力が最も強くなること、そしてその力を借りて村の人々を守っていることを。さらに、菜々美が持つ特別な力についても話してくれた。

「菜々美、あなたは特別な力を持っています。それは、自然と心を通わせることができる力。だからこそ、私を見つけることができたのです」

菜々美は驚きと共に、自分の中に眠る力に気づき始めた。霧の精霊の言葉を聞き、彼女は自分が村や自然を守るために何かできるのではないかと思った。

「どうすれば、私も村を守る力を持てるのですか？」

霧の精霊は再び微笑み、菜々美の頭を優しく撫でた。

「その心を忘れないこと。自然と共に生きることを大切にし、そして他者を思いやる心を持ち続けること。それが、あなたの力を育て、村を守る力となるでしょう」

その後、菜々美は霧の精霊との約束を胸に、村へと戻った。霧が晴れると、いつもの風景が戻ってきたが、彼女の心の中には、霧の精霊との出会いが深く刻まれていた。

それからというもの、菜々美は村の自然を大切にし、人々を助けるために心を尽くした。彼女の周りには不思議な力が働き、村はますます豊かになっていった。そして、菜々美が成長するにつれて、彼女の力もますます強くなり、村の人々からは「霧の守護者」として尊敬されるようになった。

霧の季節が再び訪れるたびに、菜々美はあの白百合の咲く泉を訪れ、霧の精霊との絆を確かめるのだった。霧が立ち込める幻想的な朝、彼女はいつもそこに立ち、村を見守る霧の精霊の力を感じていた。

そして、菜々美は村を守り続ける決意を新たにするのだった。