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寒蝉鳴(ひぐらしなく)

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第三十六候 立秋 次候

寒蝉鳴(ひぐらしなく)

8月12~17日頃

ヒグラシが鳴き始める

夏の終わりを告げる虫の音

寒蝉とは: ヒグラシやツクツクボウシなど
立秋の時季に鳴く蝉の総称
カナカナカナ
ヒグラシの澄んだ高い「カナカナカナ」という鳴き声は、夏の終わりを感じさせ、秋の訪れを告げる音


寒蝉鳴(ひぐらしなく)

夏の終わりが近づく頃、山間の小さな村では、寒蝉(ひぐらし)の鳴き声が響き渡る。それは、昼の暑さを少し和らげる涼やかな音色で、村人たちはその鳴き声を聞くと、夏が終わり、秋が訪れることを感じるのだった。

この村には、幼い頃に両親を亡くし、祖母と二人で暮らす少女、サユリがいた。彼女は村外れの古い家に住んでおり、家の周りには手入れの行き届いた庭と、小さな畑が広がっていた。祖母は農作業をしながら、サユリを育てていたが、彼女にとって、寒蝉の鳴き声は特別な意味を持っていた。

サユリがまだ幼い頃、祖母は寒蝉の鳴き声を聞くと、よく彼女にこう言った。「寒蝉の声を聞いたら、心を落ち着けて、自分の過去を思い出しなさい。そして、これからどう生きるかを考えるのよ。」

その言葉の意味は当時のサユリには分からなかったが、彼女は祖母の言葉を大切に心に刻んでいた。そして、毎年夏の終わりになると、寒蝉の声を聞きながら静かに目を閉じ、自分の心と向き合う時間を持つようになった。

サユリが15歳になる年の夏、その村には異変が訪れた。長らく平穏だった村に、不思議な病が広がり始めたのだ。村人たちは次々と高熱を出し、寝込んでしまうようになった。医者も原因を特定できず、村全体が不安と恐怖に包まれた。

その中でも、サユリの祖母は特に体が弱く、病に倒れると、すぐに衰弱していった。サユリは必死に看病を続けたが、祖母の容態は日に日に悪化していった。

ある晩、寒蝉の鳴き声が響く中で、祖母はサユリをそばに呼び寄せ、弱々しい声で言った。「サユリ、寒蝉の声を聞いて、心を落ち着けるのよ。そして、私が教えてきたことを思い出しなさい。これからは、あなたがこの家を守っていくのだから。」

サユリは涙をこらえながら、祖母の手を握りしめた。そして、深く息を吸い、寒蝉の声に耳を傾けた。その音は、どこか懐かしく、同時に切ないものであった。彼女は、幼い頃から祖母と過ごしてきた日々、そしてその教えを心に刻み込んだ。

数日後、祖母は静かに息を引き取った。村全体が悲しみに包まれる中、サユリは一人、祖母の言葉を胸に、これからどう生きるかを考えた。村の人々のために何ができるのか、そして自分自身がどう成長していくべきかを真剣に考えるようになった。

その後、サユリは村のためにできることを模索し、村の古い文献を調べ始めた。すると、昔からこの村には特定の季節に現れる病があったこと、そしてその対策として、特定の薬草を使った治療法が記されていることを発見した。サユリはその薬草を村中から集め、祖母が残してくれた知識をもとに薬を作り始めた。

薬が完成すると、サユリは病に苦しむ村人たちにその薬を分け与えた。最初は不安を抱えていた村人たちも、次第に回復していき、村全体が少しずつ元気を取り戻していった。

村の人々は、サユリの勇気と努力に感謝し、彼女を尊敬するようになった。寒蝉の鳴き声が再び聞こえる頃、サユリは村人たちの前で静かに誓った。「これからも、祖母が教えてくれたことを忘れずに、この村を守り続けます。」

その夜、サユリは一人、祖母の墓前に立ち、寒蝉の声に耳を傾けた。彼女の心は穏やかで、どこか温かいものに包まれていた。そして、祖母の言葉の意味をようやく理解したのである。寒蝉の鳴き声は、ただの夏の終わりを告げる音ではなく、過去と向き合い、未来への覚悟を決めるためのものだったのだ。

サユリはその夜、静かに目を閉じ、寒蝉の声を聞きながら新たな決意を固めた。彼女はこれからも、祖母の教えを胸に、村を守り、成長していくことを誓った。そして、その決意とともに、新しい一歩を踏み出したのだった。








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