春秋花壇

東京36度 あちー

東京36度 あちー

東京の夏は厳しい。特に今日は、早朝から気温がぐんぐん上がり、朝8時にはすでに30度を超えていた。テレビやラジオは、連日の猛暑に注意を呼びかけていたが、それでも人々は仕事や用事で外に出なければならなかった。そんな中、36度の暑さに耐えながら、街中を歩く人々の姿があった。

その日、佐藤誠（さとう まこと）は、朝から重要な会議のため、スーツを着て東京駅に向かっていた。誠は広告代理店に勤める30代半ばのサラリーマンで、今日はクライアントとの大事なプレゼンテーションが控えている日だった。彼はそのために、資料をまとめ、昨夜遅くまで準備をしていたが、疲労と暑さで目覚めた瞬間からうんざりしていた。

「今日もあちーな…」誠は汗を拭いながら、駅に向かって歩いていた。スーツの上着はすでに湿っていて、ネクタイが首にまとわりつく感覚が不快だった。東京の夏はいつも厳しいが、今年の暑さは特にひどかった。

通りを歩く人々も、暑さに顔をしかめ、うちわや扇子を手にして汗を拭っていた。そんな光景を横目に見ながら、誠は思わず自販機に立ち寄った。冷たい飲み物が喉を潤してくれると期待しつつ、財布を取り出して100円玉を投入した。しかし、ボタンを押した瞬間、飲み物の缶は落ちてこなかった。自販機はお金を飲み込み、何も出さないまま沈黙していた。

「最悪だ…」誠は小さなため息をつき、自販機を軽く叩いたが、何の反応もなかった。暑さと疲れで気力も消耗しているため、彼は諦めてそのまま歩き続けた。

東京駅に到着する頃には、誠のスーツは汗でさらに重くなり、靴の中も蒸し暑さで不快感が増していた。だが、仕事のため、彼は疲れを押し殺して気を引き締めようとしていた。

駅の構内もまた、暑さで疲れ切った人々で溢れていた。エスカレーターを降りるとき、誠は目の前のサラリーマンが倒れそうになるのを目撃した。幸い、周りの人たちがすぐに助けに入り、その場で水を渡していたが、熱中症は誰にでも襲いかかる危険があった。

「気をつけないとな…」誠は心の中で自分に言い聞かせた。彼は会議の場所に向かうため、エアコンの効いたタクシーに乗り込んだ。車内は涼しく、誠は少しだけリラックスすることができた。エアコンの冷気が、汗で湿ったスーツの隙間を通り抜け、わずかながらも清涼感をもたらしてくれた。

「どこまで行かれますか？」運転手が聞いた。誠は目的地を告げると、窓の外の景色を眺めながら、今日のプレゼンテーションのことを考えていた。暑さは厳しいが、それでも仕事をきちんとこなさなければならない。そんなことを考えているうちに、ふと、誠は自分がなぜこんなに必死に働いているのかを考え始めた。

「何のために、こんなに働いているんだろう…？」疲労と暑さで朦朧としながら、彼は自分に問いかけた。都会の喧騒と、終わりのない仕事、そしてこうした猛暑の中での生活に、何か違う意味や価値があるのかと考えると、ふと虚無感が押し寄せてきた。

しかし、目的地に近づくにつれて、誠は再び意識を仕事に集中させることにした。目の前のプレゼンテーションを成功させることが、今の彼にとって最も重要なことだった。タクシーを降りるとき、誠は再び灼熱の太陽の下に立たされたが、彼は一歩一歩、目的地のビルに向かって進んでいった。

ビルの中に入ると、冷房の効いた空間が彼を包み込み、ようやく少しだけ安心した。エレベーターで上がり、会議室に到着したときには、彼はすでに気持ちを切り替え、準備していたプレゼンテーションの内容を頭の中で再確認していた。

会議が始まると、誠は自分の役割を全うし、スムーズにプレゼンテーションを進めた。クライアントたちは彼の提案に興味を示し、商談は無事にまとまりそうだった。そんな成功の兆しを感じながら、誠は自分が成し遂げたことに満足感を覚えた。

会議が終わり、外に出たとき、誠は再び36度の熱波に包まれた。しかし、今度は少し違った感覚でその暑さを受け止めた。厳しい環境の中でも、目標を達成できたことが彼に自信を与え、暑ささえも乗り越えられる力を感じさせた。

「さあ、次の仕事に取り掛かろう。」誠はそう自分に言い聞かせ、次の目的地に向かって歩き出した。東京の夏は続くが、彼はその暑さに負けることなく、日々の生活を力強く生きていくのだった。