春秋花壇

夢の味

「夢の味」

夏の太陽が高く昇り、孤児院の庭には元気な声が響き渡っていた。子供たちは思い思いに遊び回り、笑顔が絶えない。しかし、その中には、小さな願いが叶わないまま心にしまい込んでいる子供たちがいた。

その願いとは、「アイスクリームを食べたい」というものだった。

孤児院では、日々の生活をやりくりするのが精一杯で、アイスクリームのような贅沢品は滅多に手に入らなかった。冷たいお菓子は、子供たちにとっては夢のような存在だったのだ。

孤児院の主任であるマルタは、子供たちの夢を叶えることができないことに胸を痛めていた。マルタ自身もまた、幼少期に孤児院で育ち、アイスクリームに憧れを抱いていた。だからこそ、今の子供たちにもその喜びを感じさせてあげたいと強く願っていた。

ある日、マルタは町で行われる慈善バザーのチラシを目にした。そのバザーでは、孤児院への寄付が募られ、売り上げの一部が支援金として贈られるという。マルタは決心した。「このバザーで何としても、子供たちにアイスクリームを届けるお金を集めよう」と。

バザーの当日、マルタは孤児院の子供たちと共に、手作りのお菓子や小物を持って会場に向かった。子供たちは、自分たちが作ったものが売れることに胸を躍らせていた。彼らは、自分たちの努力がアイスクリームに繋がるということを知っていたからだ。

会場では、たくさんの人々が集まり、活気に満ちていた。マルタと子供たちは、一生懸命に商品を売り込み、来場者に声をかけた。少しずつ売り上げが増えていき、子供たちは目を輝かせた。

「あと少しで、みんなの夢が叶うよ！」とマルタは励ました。

しかし、バザーの終わりが近づくと、まだ目標金額には少し足りなかった。子供たちの顔には不安がよぎったが、それでも諦めずに最後まで頑張り続けた。

そんな時、一人の老人がブースに近づいてきた。彼は白髪で優しい笑顔を浮かべており、マルタたちが販売している商品をじっくりと見ていた。

「これはどんな目的で売っているんだい？」老人が尋ねた。

マルタは正直に答えた。「孤児院の子供たちに、アイスクリームを食べさせてあげたいんです。」

老人はしばらく考え込んだ後、にっこりと笑った。「そうか、それは素晴らしい目的だね。じゃあ、これを全部いただこうか。」

老人はマルタたちが用意した商品を全て買い取り、さらにお釣りはいらないと言って、余分な寄付もしてくれた。マルタと子供たちは驚きと感謝の気持ちでいっぱいになった。

その夜、孤児院では、アイスクリームを手にした子供たちの歓声が響き渡った。冷たくて甘いその味は、彼らの心に刻まれる特別な思い出となった。マルタもまた、自分の願いを叶えたかのような幸福感に包まれていた。

子供たちは、アイスクリームを食べながら、夢のようなひとときを過ごした。彼らにとって、この日が特別な一日であることは間違いなかった。そして、この経験は、彼らが大人になっても、決して忘れられない宝物となるだろう。

アイスクリームを手にした子供たちの笑顔が、マルタの胸に深く刻まれた。彼女は、自分がこの孤児院で働いている理由を改めて感じた。

「子供たちの夢を叶えるために、私はここにいるんだ」と、マルタは心の中で静かに誓った。

そして、彼女は心の中で、あの老人に感謝の祈りを捧げた。彼の優しさが、この小さな奇跡を生んだのだと。

夜が更け、子供たちが眠りにつくと、マルタは星空を見上げた。そこには、無数の星が瞬いており、まるで子供たちの夢が輝いているかのようだった。