春秋花壇

夏野菜の恋

「夏野菜の恋」

東京の真ん中にあるビルの屋上庭園。都会の喧騒をよそに、ここには緑が広がっている。夏の日差しが容赦なく降り注ぎ、気温はどんどん上昇していた。この日、熱中症警戒アラートが発令され、街の人々は避暑のためにビル内に避難していた。

そんな中、田中舞は一人屋上庭園で汗を流しながら野菜の世話をしていた。彼女は都会に住みながらも、自然と触れ合いたくてこの庭園を借りて家庭菜園を始めたのだった。特に夏野菜のトマトときゅうりは、彼女の自慢の作物だった。

「今日も暑いなぁ…でも、頑張って育てたトマトときゅうり、しっかり収穫しないとね。」舞はそう呟きながら、プランターに水を与えた。

ふと、隣のプランターに目をやると、そこには西村健太の姿があった。健太もまた、この屋上庭園で野菜を育てている一人だった。彼の作物はナスとピーマンで、その手入れの丁寧さから、立派に実っていた。

「おはよう、舞さん。今日も暑いね。ちゃんと水分補給してる？」健太が声をかけてきた。

「おはよう、健太さん。ありがとう、ちゃんと気をつけてるよ。お互い熱中症には気をつけようね。」

二人は毎日のようにここで顔を合わせ、野菜の育て方や近況を話し合っていた。自然とお互いのこともよく知るようになり、次第に親しくなっていった。

その日、舞は特にトマトの調子が良く、大きく赤い実がいくつも実っていた。彼女は収穫したトマトをかごに入れ、健太に見せた。「見て、こんなにたくさん収穫できたの。」

「すごいね、舞さんのトマト、本当に美味しそうだ。」健太は感心した様子でトマトを眺めた。

「ありがとう。良かったら、少し持って帰ってね。」

「いいの？じゃあ、お返しに僕のナスもどうぞ。」健太は笑顔で自分のナスを手渡した。

こうして二人は、お互いの作物を交換し合うようになった。舞のトマトと健太のナスは、まるで互いに恋しているかのように、料理の中で素晴らしいハーモニーを奏でていた。

ある日、舞が屋上庭園に向かうと、健太が先に来ているのが見えた。しかし、彼の様子がいつもと違う。顔色が悪く、汗が滝のように流れていた。

「健太さん、大丈夫？もしかして熱中症？」舞は心配して駆け寄った。

「ちょっとフラフラするけど、大丈夫だよ。」健太は無理に笑おうとしたが、その表情は辛そうだった。

「無理しないで、少し休んで。水も飲んで。」舞は健太に冷たい水を手渡し、日陰に誘導した。

「ありがとう、舞さん。」健太は少しずつ水を飲みながら、舞の優しさに感謝した。

その後、二人はしばらく日陰で休み、涼しい風が吹くのを感じた。健太が少し元気を取り戻すと、舞はお弁当を取り出した。「これ、作ってきたんだけど、一緒に食べない？」

「ありがとう、いただくよ。」健太は微笑みながら、舞が作ったお弁当を手に取った。中には、舞のトマトと健太のナスを使ったサラダや、夏野菜をふんだんに使った料理が詰まっていた。

「美味しいね、舞さん。本当に料理上手だ。」健太は嬉しそうに言った。

「ありがとう。健太さんのナスがとても美味しいから、料理が楽しかったよ。」舞は照れながら答えた。

その日の昼食を共にしたことで、二人の距離はさらに縮まった。熱中症の危険を乗り越えて、舞と健太はお互いをもっと大切に思うようになった。

夏が終わりに近づく頃、二人は最後の収穫を迎えた。トマトもナスも、立派に育ち、二人の努力が実を結んだことを感じさせた。

「今年の夏は本当に特別だったね。」舞は健太に微笑んだ。

「うん、舞さんのおかげで楽しい夏になったよ。」健太も笑顔で答えた。

その後、二人は都会の真ん中で続ける家庭菜園の仲間としてだけでなく、お互いの気持ちを確かめ合い、新たな一歩を踏み出すこととなった。夏野菜が育つ過程で芽生えた二人の恋は、これからも続く物語の一部となっていくだろう。