春秋花壇

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
392 / 779

トマトを求めて

しおりを挟む
「トマトを求めて」

夏の日差しが照りつける中、あかりは自宅の庭で一人、赤く熟れたトマトの実を眺めていた。彼女の家庭菜園にはトマトの他にも色々な野菜が育っていたが、その中でもトマトは特別な存在だった。

「トマト食べたいなぁ…」あかりは呟きながら、目の前のトマトに手を伸ばした。真っ赤に熟したその実は、まるで宝石のように美しく、見るからに美味しそうだった。しかし、彼女はその手を止めた。

思い返せば、あかりは子供の頃からトマトが大好きだった。母親が作るトマトソースのパスタや、祖父が育てた新鮮なトマトを食べるのが何よりも楽しみだった。だが、大人になるにつれて忙しくなり、トマトを育てる時間も取れなくなってしまった。

「今年こそ、自分で育てたトマトを食べよう」と決意したのは、春の始まりだった。あかりは家庭菜園のスペースを確保し、種を植え、水やりを欠かさず続けてきた。そして、今やその努力が実り、目の前にはたくさんのトマトが実っていたのだ。

「今日は特別な日だし、収穫しようかな…」あかりはそう思い立ち、慎重にトマトを摘み取った。そのままキッチンに向かい、トマトを水で洗い、冷蔵庫で冷やすことにした。

しばらくして、冷えたトマトを取り出したあかりは、ナイフで半分に切った。中からはみずみずしい果肉が現れ、独特の甘酸っぱい香りが漂った。彼女は一口かじると、その爽やかな味わいが口いっぱいに広がった。

「やっぱり、自分で育てたトマトは格別だなぁ…」あかりは幸せそうに微笑んだ。

その日、あかりはトマトを使った色々な料理に挑戦することにした。まずはシンプルに塩を振って食べるトマトサラダ、次にトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ、そして最後に祖母直伝のトマトソースを作った。

夕方になり、あかりは出来上がった料理をテーブルに並べ、家族と一緒に食事を楽しんだ。両親や妹たちも、自家製のトマト料理を大いに楽しんでくれた。

「このトマト、ほんとに美味しいね!あかり、よく頑張ったね!」母親が嬉しそうに言った。

「うん、自分で育てた甲斐があったよ。来年もまた挑戦したいな。」あかりは満足そうに頷いた。

その夜、あかりはベッドに横たわりながら、今日の出来事を思い返していた。トマトを育てる過程で得た喜びと達成感、そして家族と共有した食事の時間。彼女は改めて、自然の恵みと家族の絆の大切さを感じた。

翌日、あかりは友人の美香に電話をかけた。美香も家庭菜園に興味を持っていると聞いていたからだ。

「美香、昨日トマトを収穫したんだけど、すごく美味しかったよ!もし良かったら、今度一緒に家庭菜園やらない?」

美香は電話の向こうで嬉しそうに答えた。「いいね!私もトマト育ててみたいと思ってたの。じゃあ、週末に種を買いに行こうよ。」

週末、二人はホームセンターでトマトの種や必要な道具を買い揃えた。美香は初めての家庭菜園に少し不安そうだったが、あかりが丁寧にアドバイスをしながら進めていった。

「最初はちょっと大変かもしれないけど、育てるのが楽しくなるから頑張ろうね。」

美香は頷きながら、「あかりが言うなら大丈夫だね。収穫の日が楽しみだなぁ」と笑った。

それから数ヶ月が過ぎ、美香の家庭菜園でもトマトが見事に実った。二人は収穫の日を迎え、一緒にトマト料理を楽しむことにした。

「あかり、本当にありがとう。こんなに美味しいトマト、自分で育てられるなんて思ってなかったよ。」

「こちらこそ、美香と一緒にできて楽しかったよ。これからもいろいろな野菜を育ててみようね。」

二人は新しい家庭菜園の計画を立てながら、自然の恵みと友人の絆を深めていった。彼女たちの家庭菜園は、これからも豊かな収穫をもたらし、笑顔が絶えない場所となっていくことだろう。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

聖書

春秋花壇
現代文学
愛と癒しの御手 疲れ果てた心に触れるとき 主の愛は泉のごとく湧く 涙に濡れた頬をぬぐい 痛む魂を包み込む ひとすじの信仰が 闇を貫き光となる 「恐れるな、ただ信じよ」 その声に応えるとき 盲いた目は開かれ 重き足は踊り出す イエスの御手に触れるなら 癒しと平安はそこにある

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

日本史

春秋花壇
現代文学
日本史を学ぶメリット 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。以下、そのメリットをいくつか紹介します。 1. 現代社会への理解を深める 日本史は、現在の日本の政治、経済、文化、社会の基盤となった出来事や人物を学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、現代社会がどのように形成されてきたのかを理解することができます。 2. 思考力・判断力を養う 日本史は、過去の出来事について様々な資料に基づいて考察する学問です。日本史を学ぶことで、資料を読み解く力、多様な視点から物事を考える力、論理的に思考する力、自分の考えをまとめる力などを養うことができます。 3. 人間性を深める 日本史は、過去の偉人たちの功績や失敗、人々の暮らし、文化などを学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、人間としての生き方や価値観について考え、人間性を深めることができます。 4. 国際社会への理解を深める 日本史は、日本と他の国との関係についても学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、国際社会における日本の役割や責任について理解することができます。 5. 教養を身につける 日本史は、日本の伝統文化や歴史的な建造物などに関する知識も学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、教養を身につけることができます。 日本史を学ぶことは、単に過去を知るだけでなく、未来を生き抜くための力となります。 日本史の学び方 日本史を学ぶ方法は、教科書を読んだり、歴史小説を読んだり、歴史映画を見たり、博物館や史跡を訪れたりなど、様々です。自分に合った方法で、楽しみながら日本史を学んでいきましょう。 まとめ 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。日本史を学んで、自分の視野を広げ、未来を生き抜くための力をつけましょう。

季節の織り糸

春秋花壇
現代文学
季節の織り糸 季節の織り糸 さわさわ、風が草原を撫で ぽつぽつ、雨が地を染める ひらひら、木の葉が舞い落ちて ざわざわ、森が秋を囁く ぱちぱち、焚火が燃える音 とくとく、湯が温かさを誘う さらさら、川が冬の息吹を運び きらきら、星が夜空に瞬く ふわふわ、春の息吹が包み込み ぴちぴち、草の芽が顔を出す ぽかぽか、陽が心を溶かし ゆらゆら、花が夢を揺らす はらはら、夏の夜の蝉の声 ちりちり、砂浜が光を浴び さらさら、波が優しく寄せて とんとん、足音が新たな一歩を刻む 季節の織り糸は、ささやかに、 そして確かに、わたしを包み込む

陽だまりの家

春秋花壇
現代文学
幸せな母子家庭、女ばかりの日常

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夕立ち 改正版

深夜ラジオ
現代文学
「手だけ握らせて。それ以上は絶対にしないって約束するから。」  誰とも顔を合わせたくない、だけど一人で家にいるのは辛いという人たちが集まる夜だけ営業の喫茶店。年の差、境遇が全く違う在日コリアン男性との束の間の身を焦がす恋愛と40代という苦悩と葛藤を描く人生ストーリー。   ※スマートフォンでも読みやすいように改正しました。

処理中です...