春秋花壇

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
347 / 693

夏の風鈴と二人の誓い

しおりを挟む
夏の風鈴と二人の誓い

緑葉が揺れる、夏の盛り。土は湿り、蒸し暑さが満ちている。心地よい風が時折そよぎ、葉を揺らして通り過ぎる。

夏祭りの日、神社の境内は活気に満ちていた。浴衣を纏った人々が行き交い、屋台の明かりが辺りを照らしている。少女、千夏は、神社の石段に座って風鈴の音を聴いていた。静かに風が吹き抜ける度に、涼しげな音色が響き、彼女の心を落ち着かせる。

千夏は風鈴市で買ったばかりの風鈴を手に持ち、その繊細なガラスの中に刻まれた金魚の絵を見つめていた。この風鈴を一緒に選んでくれたのは、幼馴染の蓮だった。蓮は彼女にとって特別な存在だったが、彼に気持ちを伝える勇気がなかった。

蓮が現れたのは、突然のことだった。「千夏、ここにいたんだね。」彼は笑顔を浮かべて、彼女の隣に腰を下ろした。「風鈴、気に入ってくれた?」

「うん、とっても綺麗だよ。」千夏は頬を染めながら答えた。

蓮は自分の風鈴も取り出して見せた。「僕のも見て。お揃いだよ。」

千夏は驚いて彼の風鈴を見つめた。それは彼女のと同じ金魚の絵が描かれていた。「ほんとだ、お揃いだね。」

二人はしばらく無言で座り、風鈴の音に耳を傾けていた。心地よい風が再び吹き、葉がさわさわと揺れた。その時、蓮が静かに口を開いた。「千夏、実はずっと伝えたいことがあったんだ。」

千夏は驚いて蓮の顔を見上げた。「何、蓮?」

「君のことが、ずっと好きだった。」蓮の目は真剣で、その言葉は深い思いを込めていた。

千夏の心はドキドキと高鳴った。ずっと憧れていた人からの告白に、どう答えるべきか迷ったが、彼女の口から自然と出た言葉は、「私も、蓮のことが好き。」

蓮は嬉しそうに微笑み、二人は見つめ合った。風が再び吹き、風鈴が美しい音を奏でた。千夏と蓮の心も、その音に乗って軽やかに舞い上がるようだった。

その夜、祭りの喧騒の中で二人は手を繋ぎながら歩いた。屋台の灯りが暖かく照らし、周りの人々の笑顔が二人を包み込んだ。緑葉が揺れる、蒸し暑い夏の夜、千夏と蓮の心は新たな一歩を踏み出していた。風がそよぎ、二人の未来もまた、この風と共に穏やかに進んでいくのだろう。


二人は祭りの喧騒の中、心地よい風に包まれながら手を繋いで歩いた。夜空には花火が咲き誇り、その光が千夏と蓮の顔を照らしていた。千夏は蓮の手の温もりを感じながら、これまでの思い出が蘇ってくるのを感じた。

「ねえ、蓮。覚えてる?小さい頃、ここで一緒にかくれんぼしたこと。」千夏は懐かしそうに微笑んだ。

「もちろん覚えてるよ。君が見つからなくて、心配で泣きそうになったんだ。」蓮は笑いながら答えた。

「それは私が大きな樹の後ろに隠れていたからよ。君がどこにも見つけられないって叫んでいたのを、ずっと聞いてた。」千夏は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「本当に心配したんだよ、千夏。だけど、あの時も今も、君が一緒にいてくれて嬉しい。」蓮は優しく千夏の手を握りしめた。

二人は夜店を見て回り、射的や金魚すくいに挑戦した。千夏は蓮に手を引かれ、笑顔で溢れていた。そんな時、ふと目に留まったのは、遠くから聞こえる太鼓の音だった。神社の境内で行われている盆踊りだった。

「踊ろうか?」蓮は千夏に提案した。

千夏は一瞬戸惑ったが、蓮の手を握り返しながら頷いた。「うん、踊ろう。」

二人は手を繋いで盆踊りの輪の中に入った。太鼓のリズムに合わせて体を揺らし、笑顔で踊り続けた。周りの人々も二人の幸せそうな姿に微笑みを浮かべていた。

盆踊りが終わり、二人は再び石段に座り、風鈴の音を聞きながら夜空を見上げた。花火の残り火が夜空に煌めき、星々が輝いていた。

「千夏、僕たちこれからもずっと一緒にいよう。」蓮は静かに言った。

千夏は蓮の言葉に深く頷き、彼の肩に寄り添った。「うん、蓮。これからもずっと一緒に。」

その夜、風がそよぐ音と共に、二人の心は一つになった。緑葉が揺れる夏の夜、千夏と蓮の未来は希望に満ちていた。二人は手を繋ぎ、これからの道を共に歩む決意を新たにした。

その時、風鈴の音が一際大きく響き渡り、二人の胸に温かい感動を残した。風がそよぐ度に、その音色は二人の愛を深め、未来への希望を奏で続けたのだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇
現代文学
俺は小説家になる 語彙を増やす 体は食べた・飲んだもので作られる。 心は聞いた言葉・読んだ言葉で作られる。 未来は話した言葉・書いた言葉で作られる。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...