春秋花壇

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
311 / 799

「黒南風」(くろはえ)

しおりを挟む

黒南風
じめじめ梅雨の空に
暗く重く垂れ込める雲
吹きつける風は湿り重く
息苦しいほどの暑さ

木々の葉も重そうに揺れ
鳥たちの声も聞こえない
ただ蝉の声だけが響き渡る

黒南風と呼ばれるこの風は
梅雨の訪れを告げる
じめじめと蒸し暑い日々
いつまで続くのか

けれどこの風は
夏の訪れも告げる
もうすぐ青空が広がり
蝉の声も力強く響き渡る

黒南風よ
早く去ってくれ
そして青空と太陽を
私たちに届けてくれ


「黒南風」(くろはえ)

夏の始まりを告げる黒南風が吹く季節。海のそばの小さな大学のキャンパスでは、薄曇りの空と涼しい風が学生たちを包んでいた。そんな中、二年生の真琴(まこと)は、図書館の一角で読書にふけっていた。彼の目の前には、哲学書が広げられていたが、実際のところ心は別のところにあった。

それは、同じクラスの美咲(みさき)のことだった。美咲は文学部の才媛で、いつも本に囲まれている姿が印象的だった。真琴は、彼女に対して淡い恋心を抱いていたが、シャイな性格が災いし、なかなか話しかけることができなかった。

図書館の静けさの中、美咲が現れた。彼女は真琴の隣の席に座り、静かに本を開いた。真琴は心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、目の前の文字に集中しようとしたが、どうしても彼女の存在が気になって仕方がなかった。

「哲学の本なんて、難しそうね。」

突然の美咲の声に、真琴は驚き顔を上げた。彼女の笑顔に、心の中で何かが弾けたような気がした。

「あ、いや、なんとなく興味があって…。」

不器用ながらも答えると、美咲は微笑みながら続けた。

「私も哲学に興味があるの。特に、存在について考えることが好きなの。」

この話題がきっかけで、二人は少しずつ打ち解けていった。図書館の静けさの中で、彼らの会話は次第に深まり、やがて毎日のように顔を合わせるようになった。

黒南風が吹く夏の間、二人は共に過ごす時間が増えていった。海辺のカフェで本を読みながらお茶を飲んだり、キャンパスのベンチで夕日を見ながら語り合ったり。次第に真琴は、自分の気持ちを美咲に伝えたいと思うようになったが、勇気が出せずにいた。

ある日、美咲が真琴に話しかけた。

「真琴くん、私たち、もっと深く話せる関係になりたいと思っているの。」

その言葉に、真琴は一瞬戸惑ったが、すぐに心の奥底から湧き上がる感情に正直になろうと決心した。

「僕も、美咲のことをもっと知りたい。実は、ずっと前から君のことが好きだったんだ。」

美咲の目が驚きに大きく見開かれ、そして次の瞬間、彼女の頬がほんのりと赤く染まった。

「真琴くん、私も…同じ気持ちだったの。」

その瞬間、二人の距離は一気に縮まり、手を取り合った。黒南風が優しく二人を包み込む中、真琴と美咲は新たな一歩を踏み出した。

それからも黒南風の季節が巡ってくるたびに、二人は思い出の場所を訪れることが習慣となった。海辺のカフェやキャンパスのベンチで、彼らはお互いに寄り添いながら、新しい未来を夢見て語り合った。

黒南風の涼しい風は、二人の心を繋ぐ絆の象徴となり、いつまでもその愛の物語を優しく見守り続けた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

ギリシャ神話

春秋花壇
現代文学
ギリシャ神話 プロメテウス 火を盗んで人類に与えたティタン、プロメテウス。 神々の怒りを買って、永遠の苦難に囚われる。 だが、彼の反抗は、人間の自由への讃歌として響き続ける。 ヘラクレス 十二の難行に挑んだ英雄、ヘラクレス。 強大な力と不屈の精神で、困難を乗り越えていく。 彼の勇姿は、人々に希望と勇気を与える。 オルフェウス 美しい歌声で人々を魅了した音楽家、オルフェウス。 愛する妻を冥界から連れ戻そうと試みる。 彼の切ない恋物語は、永遠に語り継がれる。 パンドラの箱 好奇心に負けて禁断の箱を開けてしまったパンドラ。 世界に災厄を解き放ってしまう。 彼女の物語は、人間の愚かさと弱さを教えてくれる。 オデュッセウス 十年間にも及ぶ流浪の旅を続ける英雄、オデュッセウス。 様々な困難に立ち向かいながらも、故郷への帰還を目指す。 彼の冒険は、人生の旅路を象徴している。 イリアス トロイア戦争を題材とした叙事詩。 英雄たちの戦いを壮大なスケールで描き出す。 戦争の悲惨さ、人間の業を描いた作品として名高い。 オデュッセイア オデュッセウスの帰還を題材とした叙事詩。 冒険、愛、家族の絆を描いた作品として愛される。 人間の強さ、弱さ、そして希望を描いた作品。 これらの詩は、古代ギリシャの人々の思想や価値観を反映しています。 神々、英雄、そして人間たちの物語を通して、人生の様々な側面を描いています。 現代でも読み継がれるこれらの詩は、私たちに深い洞察を与えてくれるでしょう。 参考資料 ギリシャ神話 プロメテウス ヘラクレス オルフェウス パンドラ オデュッセウス イリアス オデュッセイア 海精:ネーレーイス/ネーレーイデス(複数) Nereis, Nereides 水精:ナーイアス/ナーイアデス(複数) Naias, Naiades[1] 木精:ドリュアス/ドリュアデス(複数) Dryas, Dryades[1] 山精:オレイアス/オレイアデス(複数) Oread, Oreades 森精:アルセイス/アルセイデス(複数) Alseid, Alseides 谷精:ナパイアー/ナパイアイ(複数) Napaea, Napaeae[1] 冥精:ランパス/ランパデス(複数) Lampas, Lampades

老人

春秋花壇
現代文学
あるところにどんなに頑張っても報われない老人がいました

徒然草

春秋花壇
現代文学
徒然草 つれづれなるままに、日暮らし硯に向かひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

陽だまりの家

春秋花壇
現代文学
幸せな母子家庭、女ばかりの日常

感謝の気持ち

春秋花壇
現代文学
感謝の気持ち

処理中です...