春秋花壇

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夏の記憶

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夏の記憶

初夏の陽射しが街を染める頃、私は彼と出会った。あの日のことを思い出すたび、胸が温かくなる。青い空、さわやかな風、そして彼の笑顔――それらが全て私の心に焼きついている。

彼の名前は涼太(りょうた)。私よりも五歳年上で、仕事帰りのカフェで偶然隣に座ったのが始まりだった。彼は一杯のコーヒーと共に、本を読んでいた。私も同じカフェで、休憩時間に息抜きしていたのだ。

「この本、面白いですか?」私は思わず声をかけた。

涼太は顔を上げ、少し驚いた表情を浮かべた後、柔らかな笑みを浮かべた。「ええ、とても。読み終わったら、あなたにも貸しますよ。」

それがきっかけで、私たちは自然と会話を交わすようになった。彼は優しく、知識豊富で、話していると時間があっという間に過ぎてしまう。毎週のようにカフェで会うようになり、私たちは友達以上の関係へと進展していった。

夏祭りの夜、涼太と一緒に花火大会に出かけた。浴衣を着て、屋台の並ぶ道を歩くと、子供の頃の思い出が蘇ってきた。金魚すくい、りんご飴、綿菓子――懐かしい香りと音が私たちを包み込んだ。

「昔、よく家族で来たなあ」と私が言うと、涼太は微笑んで頷いた。「僕も。こうしてまた来ると、なんだかタイムスリップしたみたいですね。」

夜空に咲く大輪の花火を見上げながら、私は涼太の手を握った。彼も強く握り返してくれた。その瞬間、私は確信した。涼太が私にとって特別な存在であることを。

夏が終わりに近づくと、私たちはさらに多くの時間を一緒に過ごした。海辺でのドライブ、山間の温泉旅行、そして涼太の家での静かな夜。どれもが宝物のような時間だった。

しかし、夏の終わりと共に、涼太に転勤の話が持ち上がった。彼は悩んでいた。「君と離れるのは辛い。でも、仕事のチャンスは逃せないんだ。」

私は涼太の気持ちを理解し、応援することにした。「大丈夫、涼太。私たちは遠く離れても心は繋がっているよ。頑張って。」

涼太が転勤先へ旅立つ日、駅のホームで見送った。涙がこぼれそうになるのを必死でこらえながら、私は彼に手を振った。「気をつけてね、涼太。また会おうね。」

「ありがとう、君も元気でね。必ず戻ってくるから。」涼太も手を振り返し、電車がゆっくりと動き出した。

彼が見えなくなった後、私はホームに立ち尽くし、夏の思い出を胸に抱いた。これからの季節がどんなに寂しくても、涼太との絆が私を支えてくれることを信じていた。

涼太がいない夏は寂しかったが、手紙や電話でのやり取りが私たちを繋ぎ止めてくれた。毎日が新たな一歩だった。そして、冬が来て、春が過ぎ、再び夏が訪れる頃、涼太は約束通り戻ってきた。

再会した瞬間、私たちは強く抱きしめ合った。「おかえり、涼太。」

「ただいま。もう離れないよ。」

その夏、私たちは再び共に歩き始めた。どんな季節でも、涼太となら乗り越えられると信じて。彼と過ごす日々が、私にとって一番の宝物だった。








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