春秋花壇

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夏断

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夏断

今年の夏も、東京の街は灼熱の太陽に包まれていた。猛暑日が続く中、エアコンの涼しさを求めて、多くの人々が家の中に閉じこもっていた。しかし、私の住むアパートのエアコンは故障し、管理会社は「修理まで一週間はかかる」と冷たく告げた。

「どうやって、この暑さをしのぐのか……」

私は冷蔵庫の中にある氷をすべて使って、自家製の冷たい飲み物を作り、なんとかその日をやり過ごしていた。だが、夜になると蒸し暑さが一層ひどくなり、寝苦しい夜が続いた。そんなある日、幼なじみの悠也から連絡があった。

「美咲、ちょっと家に遊びに来ないか? こっちはエアコンがしっかり効いてるから、涼みにおいでよ」

彼の家は私のアパートから歩いて15分ほどの距離にある。迷わず彼の提案を受け入れ、私は荷物をまとめて家を出た。夜の風が少しだけ涼しく感じられたが、それでも汗が止まらなかった。

悠也の家に到着すると、彼は冷たいお茶を用意して待っていてくれた。エアコンの効いたリビングで、私はやっと安らぎを感じた。

「助かったよ、悠也。本当にありがとう」

「いいんだよ、友達だからな。それに、この暑さは誰だって辛いさ」

彼は笑顔でそう言いながら、私に冷たいおしぼりを手渡した。その瞬間、私は彼の優しさに胸が熱くなった。

数日間、私は悠也の家で過ごすことにした。彼は一人暮らしだったため、気兼ねなく過ごせる環境だった。朝は一緒に朝食を作り、昼間はそれぞれの仕事や趣味に集中し、夜は一緒に映画を見たり、ゲームをしたりして過ごした。

そんなある日、悠也が突然こう言った。

「美咲、君に伝えたいことがあるんだ」

彼の真剣な表情に、私は少し戸惑った。

「何? どうしたの?」

「実は、ずっと君のことが好きだったんだ」

その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がった。幼なじみとして過ごしてきた時間が、突然別の色合いを持ち始めた。

「でも、どうして今まで言わなかったの?」

「怖かったんだ。君を失うのが……でも、この夏、君が僕の家に来てくれたことで、自分の気持ちに正直になろうと思った」

悠也の目には真剣な思いが宿っていた。その瞳を見つめながら、私は自分の気持ちに気づいた。

「私も、悠也のことが好きだったんだ。ただ、言葉にする勇気がなかった」

お互いの気持ちが通じ合ったその瞬間、私たちは自然と手を取り合っていた。猛暑の中で過ごした日々が、私たちの絆をより一層強くしてくれたのだ。

エアコンの修理が完了し、私のアパートに戻る日が来た。だが、私たちの関係は変わらず、むしろ深まっていた。悠也は頻繁に私の家に訪れ、一緒に時間を過ごすようになった。

そして、秋が訪れた頃、私たちは正式に付き合うことを決めた。夏の灼熱の中で育まれた恋が、穏やかな秋の風に乗って、新たな一歩を踏み出したのだ。

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