春秋花壇

梅雨の恋

梅雨の恋

六月の東京は、しとしとと降り続く雨に包まれていた。梅雨の季節は街を灰色に染め、傘の花が咲く。そんな日々の中、玲子はいつものように通勤ラッシュの電車に乗り込んだ。濡れたコートを脱ぎ、つり革に掴まりながら窓の外を見ると、ぼんやりとした景色が広がっていた。

玲子は広告代理店で働く28歳の女性。仕事に追われる毎日で、恋愛にはあまり興味を持っていなかった。そんなある日、彼女は電車で一冊の本を読みながら、ふと顔を上げた。その瞬間、彼女の目に留まったのは、向かいの席に座る一人の男性だった。

その男性は、30代半ばくらいのスーツ姿のビジネスマンで、傘を膝の上に置きながら、何かに夢中になっていた。玲子はその姿に惹かれ、つい見入ってしまった。その日から、彼女はその男性に会うために同じ時間の電車に乗るようになった。

雨の日が続く中、玲子は毎朝、彼の姿を探すのが日課となった。彼がどんな本を読んでいるのか、何を考えているのか、気になることばかりだった。そして、ある日、玲子は意を決して話しかけることにした。

「おはようございます。いつも同じ電車に乗っていますよね？」

男性は驚いたように顔を上げたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。「ええ、そうですね。おはようございます。いつも静かに本を読んでいるので気づかなかったです。」

その日から、玲子と彼、真一との間には会話が生まれた。毎朝の通勤時間が楽しみとなり、二人の距離は少しずつ縮まっていった。真一は広告代理店のクライアントである企業に勤めており、共通の話題も多かった。

雨の日が続く中、二人は次第にお互いのことを知り、心を通わせていった。ある日、玲子は真一から食事に誘われた。小さなイタリアンレストランで、二人は仕事の話や趣味の話に花を咲かせた。その夜、玲子は初めて感じた温かな気持ちに包まれた。

しかし、梅雨の終わりが近づくにつれ、玲子の心には一抹の不安が広がった。雨が止めば、二人の関係も終わってしまうのではないかと考えると、心が締め付けられた。

ある夜、玲子は真一にその不安を打ち明けた。「梅雨が終わったら、私たちの関係も終わってしまうんじゃないかって、不安で仕方ないの。」

真一は玲子の手を取り、優しく微笑んだ。「玲子さん、雨が止んでも、僕たちの関係は変わらないよ。僕は君ともっと一緒にいたいと思っているんだ。」

その言葉に、玲子は安心した。そして、梅雨が明け、青空が広がる日、真一は玲子にプロポーズした。「玲子、これからもずっと一緒にいてくれませんか？」

玲子は涙を浮かべながら、力強く頷いた。「はい、ずっと一緒にいます。」

その日から、二人は新たな季節を迎えた。雨の日も晴れの日も、共に過ごす時間が増え、愛は深まっていった。玲子と真一の恋は、梅雨の季節に始まり、永遠に続くものとなった。

梅雨の雨が街を濡らし続ける間に芽生えた愛は、青空の下で花開き、二人の未来を照らし続けた。そして、雨が降るたびに、玲子はあの日の出会いを思い出し、心から感謝するのだった。