春秋花壇

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
233 / 799

ストロベリームーン

しおりを挟む
ストロベリームーン

6月の暖かい夜、薄紅色に染まる満月が夜空に浮かんでいた。ストロベリームーンと呼ばれるこの特別な満月は、一年の中でも特に幻想的な夜を演出する。古くからの伝承では、ストロベリームーンの夜に願いをかけると、それが叶うと言われている。

田舎町に住む美咲(みさき)は、毎年この夜を楽しみにしていた。今年のストロベリームーンも、彼女は心待ちにしていた。美咲の両親は、彼女が小さな頃から毎年この夜に特別なピクニックを計画してくれていた。家族で手作りのご飯を持って、夜空の下で月を見上げるその時間が、彼女の一番の思い出だった。

しかし、今年は少し違った。両親は数年前に離婚し、美咲は母親と二人で暮らしていた。父親とはあまり会えなくなっていたが、美咲の心には今も彼との楽しい思い出が色濃く残っていた。今年のストロベリームーンも、父親との思い出を胸に、一人で特別な夜を過ごすことに決めた。

美咲はピクニックの準備を始めた。母親が作ってくれたお弁当を持ち、町外れの丘へと向かった。丘の上からは、夜空を一望できる絶好のスポットだった。彼女はブランケットを広げ、お弁当を並べて座った。

空は徐々に暗くなり、満月が顔を出し始めた。ストロベリームーンの薄紅色の光が、周囲の風景を優しく照らしていた。その美しさに見惚れながら、美咲は父親との思い出に浸った。

「お父さん、今もどこかでこの月を見てるのかな…」

ふと、彼女は呟いた。ストロベリームーンの夜に願いをかけると叶うという伝承を思い出し、心の中でそっと願いをかけた。「お父さんともう一度一緒にこの月を見られますように。」

その瞬間、背後から聞き慣れた声が聞こえた。「美咲、やっぱりここにいたんだな。」

振り返ると、そこには父親の姿があった。驚きと喜びが交錯し、美咲は言葉を失った。父親は微笑みながら、美咲の隣に座った。

「どうしてここに?」美咲はようやく声を出した。

「今日は特別な日だって知ってたからさ。美咲がここでストロベリームーンを見るのが好きだったのを思い出して、来てみたんだ。」父親は優しく答えた。

二人はしばらくの間、黙って月を見上げていた。言葉はいらなかった。ただ一緒にいるだけで、心が通じ合っていると感じた。

「お父さん、来てくれてありがとう。すごく嬉しい。」美咲は涙を浮かべながら言った。

「美咲、離れていてもお前のことをいつも考えているよ。これからも、いつでも会いに来るから。」父親は優しく美咲の手を握った。

その夜、二人はストロベリームーンの下で過ごし、たくさんの話をした。父親との再会は、美咲にとって何よりも特別な時間となった。月の光に包まれながら、二人の絆は一層深まっていった。

やがて月が高く昇り、夜が更けていく。美咲と父親は、また会う約束をして別れた。美咲は心に新たな希望と温かさを抱いて家に帰った。

翌朝、母親に昨夜の出来事を話すと、母親も笑顔で聞いてくれた。「よかったわね、美咲。お父さんとの時間、大切にしてね。」

それからというもの、美咲は毎年ストロベリームーンの夜を待ち望むようになった。その特別な夜は、彼女にとって希望と絆の象徴となった。そして、美咲の願いが叶ったことに感謝しながら、彼女は新たな一歩を踏み出していった。

ストロベリームーンの夜には、不思議な魔法がかかるのかもしれない。その薄紅色の光の中で、美咲はこれからも多くの夢を見つけ、願いをかけ続けるだろう。月が満ちるたびに、彼女の心もまた満ちていくのだ。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

陽だまりの家

春秋花壇
現代文学
幸せな母子家庭、女ばかりの日常

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

日本史

春秋花壇
現代文学
日本史を学ぶメリット 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。以下、そのメリットをいくつか紹介します。 1. 現代社会への理解を深める 日本史は、現在の日本の政治、経済、文化、社会の基盤となった出来事や人物を学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、現代社会がどのように形成されてきたのかを理解することができます。 2. 思考力・判断力を養う 日本史は、過去の出来事について様々な資料に基づいて考察する学問です。日本史を学ぶことで、資料を読み解く力、多様な視点から物事を考える力、論理的に思考する力、自分の考えをまとめる力などを養うことができます。 3. 人間性を深める 日本史は、過去の偉人たちの功績や失敗、人々の暮らし、文化などを学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、人間としての生き方や価値観について考え、人間性を深めることができます。 4. 国際社会への理解を深める 日本史は、日本と他の国との関係についても学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、国際社会における日本の役割や責任について理解することができます。 5. 教養を身につける 日本史は、日本の伝統文化や歴史的な建造物などに関する知識も学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、教養を身につけることができます。 日本史を学ぶことは、単に過去を知るだけでなく、未来を生き抜くための力となります。 日本史の学び方 日本史を学ぶ方法は、教科書を読んだり、歴史小説を読んだり、歴史映画を見たり、博物館や史跡を訪れたりなど、様々です。自分に合った方法で、楽しみながら日本史を学んでいきましょう。 まとめ 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。日本史を学んで、自分の視野を広げ、未来を生き抜くための力をつけましょう。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...