春秋花壇

水無月

水無月

プロローグ
梅雨の季節が訪れ、しとしとと降り続く雨が街全体を包み込んでいた。六月の水無月、この季節は特に京都の風情が一層際立つ。伝統的な和菓子の店「菊乃屋」は、いつも通りの営業を続けていた。この店は創業百年を誇る老舗で、特に水無月という和菓子が人気だった。

出会い
「菊乃屋」の女将、琴乃は一人娘の葵と一緒に店を切り盛りしていた。琴乃は早くに夫を亡くし、葵を女手一つで育て上げた。葵は若くして店の後を継ぐことを決意し、日々努力を重ねていた。

ある日、雨の中、傘をさした一人の青年が店に訪れた。彼の名前は和也。京都大学の学生で、研究の合間に和菓子を求めて訪れたのだ。

「いらっしゃいませ。何をお探しですか？」葵は笑顔で迎えた。

「水無月を一つください。母が大好きなんです」と和也は答えた。

葵は水無月を包みながら、「六月の風物詩ですよね。お母様に喜んでもらえるといいですね」と言った。

和也は礼を述べて店を出て行った。その後も、彼は度々「菊乃屋」を訪れるようになり、葵と少しずつ親しくなっていった。

心の交流
六月の雨が続くある日、和也はいつものように店に訪れた。葵は彼を見て、ほっとした表情を浮かべた。

「今日は特に雨が激しいですね」と和也が言った。

「そうですね。でも、雨のおかげで庭の紫陽花が一層美しく見えます」と葵が答えた。

その日、和也は特別に長居をし、二人は色々な話をした。和也は東京から京都に移り住んだ理由や、研究のこと、家族のことを話した。葵もまた、店のことや母との思い出を語った。

「葵さん、あなたの話を聞いていると、この店がどれだけ愛されているかがよくわかります。僕もこの店が好きになりました」と和也は言った。

葵はその言葉に心を温められた。彼の誠実な言葉と真摯な態度に、次第に心を開くようになった。

愛の芽生え
六月の終わりが近づく頃、和也は店に来るたびに、葵と一緒に過ごす時間が増えていった。ある日、和也は意を決して葵に気持ちを伝えることにした。

「葵さん、僕はあなたと過ごす時間が本当に楽しいです。もしよければ、もっとあなたと一緒にいたいと思っています」と和也が言った。

葵は驚きながらも、心の中で同じ気持ちを抱いていることに気づいた。彼の優しさと誠実さに惹かれ、彼と一緒に未来を歩んでいきたいと思ったのだ。

「和也さん、私も同じ気持ちです。これからも一緒に過ごしていきたいです」と葵は答えた。

新たな始まり
その後、和也と葵は一緒に「菊乃屋」を盛り上げていくことを決意した。和也は研究と並行して店の手伝いをし、葵と共に新しい和菓子のアイデアを考えたり、店の運営を学んだりした。

六月の終わり、店の庭には紫陽花が満開だった。和也と葵はその美しい景色を眺めながら、これからの未来について語り合った。

「これからも二人で力を合わせて、店を守っていきましょう」と和也が言った。

「はい、和也さん。私たちの愛と努力で、この店をもっと素晴らしい場所にしましょう」と葵は微笑んで答えた。

エピローグ
水無月の季節が再び訪れるたびに、和也と葵はその時の思い出を振り返り、愛を深めていった。彼らの努力と愛情は、店を訪れるお客様にも伝わり、「菊乃屋」はますます繁盛していった。

「水無月」という和菓子は、二人の愛の象徴となり、店の看板商品として多くの人々に愛され続けた。その美しい赤い花のように、二人の愛もまた、永遠に咲き続けるのであった。