悪役令嬢は婚約破棄されたので白、回復、状態異常解除魔法を極めます。

再生への道—ステファニーとフレデリックの挑戦

再生への道—ステファニーとフレデリックの挑戦

黒死病の猛威が再び王都を襲った時、ステファニーはただ沈黙していられなかった。今やその被害は王都だけにとどまらず、隣国や交易先の国々にも広がり、まさに世界的なパンデミックの様相を呈していた。伝え聞くところによれば、すでに当時の世界人口の4分の1が命を落としたという。

「このままでは国そのものが滅びるわ……」

ステファニーは再び立ち上がり、これまでの取り組みをさらに徹底させることを決意した。黒死病の媒介がノミとシラミにあると判明した今、彼女の指導のもと、王都全体で衛生対策が本格化した。

変化の始まり
「頭髪、陰毛、腋毛を剃りなさい。それが命を守ることにつながるのです！」

ステファニーの声が広場に響き渡った。初めは戸惑いの声も多かった。特に女性たちは、毛を剃ることに大きな抵抗を示した。だが、ステファニーは毅然とした態度でこう言い放った。

「見た目の美しさより、命の方が何百倍も大切でしょう！」

彼女の情熱に打たれた民衆は、次第にその言葉を受け入れ、衛生への意識を高めていった。布団や衣服は毎日天日干しにされ、手洗いとうがいが徹底された。各家庭に熱湯消毒の習慣が根付くよう、ステファニーは自ら井戸のそばに立ち、手本を示した。

「お湯を沸かして、その中に衣服を浸して……こうして完全に消毒するんです！」

王都全体がまるで巨大な洗濯場のようになり、通りには干された布団や衣服がはためいていた。

フレデリック・ル・ザルムの助力
一方で、庭師のフレデリック・ル・ザルムもまた、この危機を乗り越えるために動いていた。彼は長年育ててきた薬草やハーブを使い、衛生的な環境作りに一役買っていた。

「このラベンダーを家の中に吊るしてごらんなさい。ノミやシラミを寄せつけにくくなるよ。」

「ティーツリーの葉を煎じて、この汁で床を拭きなさい。それだけで菌が減るはずだ。」

フレデリックの指導を受けた人々は、王都の隅々まで薬草を広げ、街全体が清らかな香りに包まれるようになった。

また、彼の庭園で作られたハーブティーは、感染症にかかった人々の免疫力を高める薬として重宝された。ステファニーは彼の知識と努力に深く感謝し、彼を「王都の救い主の一人」として讃えた。

「フレデリック、あなたのおかげで王都の人々は生きる力を取り戻しています。本当にありがとう。」

「いや、僕は庭師として当然のことをしているだけだよ。花も人も、愛情と手入れで生き返るものさ。」

彼は微笑みながら、自ら育てたミントの束をステファニーに手渡した。

王都住民の変化
こうした取り組みが徐々に成果を上げる中、王都の住民たちの意識も変わり始めた。それまで風呂に入る習慣を持たない「風呂キャンセル世代」として揶揄されていた彼らが、ついに清潔さの重要性に気づき始めたのだ。

「毎日手を洗うのって、こんなに気持ちがいいなんて知らなかったわ。」

「寝具を干すと、夜の眠りがずっと快適になるね。」

さらには、王都の広場には公衆浴場が新たに建設され、そこでは清潔な水と薬草湯が提供されるようになった。この公衆浴場は、ステファニーとフレデリックが発案し、王子ダミアンの支援のもと建設されたものである。

「これからは清潔な生活を習慣にするんだぞ。」

子供たちにそう言い聞かせる親の姿も増え、世代を超えた変化が生まれつつあった。

新しい未来へ
半年後、王都は見違えるほど変わっていた。感染者の数は激減し、人々の健康が取り戻されつつあった。ステファニーは高台から街を見下ろし、静かに祈りを捧げた。

「どうか、この平和が続きますように……」

そのとき、フレデリックが彼女のそばにやってきた。

「ステファニー、君の尽力には本当に頭が下がるよ。この国を救ったのは君の知恵と行動力だ。」

「いいえ、私一人では何もできなかった。フレデリック、あなたや王子、そして市民たちが協力してくれたからこそ、今があるのです。」

彼女は微笑みながらそう言い、手にしたミントの葉を見つめた。その緑は、命の象徴であり、未来への希望を映し出しているかのようだった。

ステファニーとフレデリックの尽力により、王都は黒死病を克服し、新しい生活習慣を受け入れた。これからの時代、衛生と清潔が繁栄の鍵となることを人々は忘れないだろう。そして、この苦難を乗り越えた街には、再び笑顔と希望が満ちていくのだった。