帰り道の光

「雨の中の記憶」

「雨の中の記憶」 

京子がまだ小学生だった頃。ある土曜日の夕方、京子は学校帰りの道で突然の雨に降られた。傘を忘れてしまい、ずぶ濡れになって急いで走っていると、遠くに母の姿が見えた。母は少し慌てた様子で、駅の方を見つめていた。京子が走り寄ると、母は急いで手を広げ、少し怒ったような、けれど安心したような表情で迎えてくれた。

「京子！傘を持っていくの忘れたでしょ？もう…、風邪を引いちゃったらどうするの？」

母はそう言いながらも、京子の背中をそっとタオルで包み込み、あたたかい手で京子の髪を撫でてくれた。その手の温もりが雨の冷たさを一瞬にして溶かし、京子の心までじんわりと温まるのを感じた。

その後、二人は傘を共有しながらゆっくりと家路をたどった。母が片手で傘を支え、もう片方の手で京子の肩を抱き寄せてくれる。小さな京子にとって、その傘の下はまるで世界から守られた特別な空間だった。

「お母さん、どうしてそんなに優しいの？」と、幼い京子はぽつりとつぶやいた。

母は少し微笑みながら答えた。「それはね、京子が私の大事な宝物だからよ。お母さんもね、京子からいっぱい優しさをもらってるの」

その時の母の笑顔とあたたかい声は、今でも京子の心に深く刻まれている。

＊＊＊

別のエピソードもある。高校生の京子は、進路に悩んでいた。成績は悪くないものの、特に何がやりたいのか分からず、毎晩のように勉強机に向かってため息をついていた。そんなある夜、ふとキッチンからいい香りが漂ってきた。母がいつもとは違うスパゲッティを作っているようだった。

「京子、気分転換にちょっとお茶にしない？」と母が声をかけてくれた。

リビングに座り、一緒に食べた母の手作りのミートソーススパゲッティの味は今でも忘れられない。京子が悩みを打ち明けると、母は静かに耳を傾けてくれ、特にアドバイスをすることなくただこう言ってくれた。

「自分のペースでいいんだよ、京子。焦らなくて大丈夫だから。お母さんはいつでも応援してるからね」

その言葉がどれほど京子の支えになったか、母には分からなかったかもしれない。それでも京子はその夜、少しだけ肩の力を抜いて自分を受け入れることができた。

＊＊＊

時が経ち、今は自分が母の支えになる番だと感じている京子。それでも、母との過去の思い出が時折よみがえるたび、京子の心はあの頃のように温かく包まれる。母との記憶は、京子にとって道しるべであり、これからもずっと消えることのない灯火となって彼女を照らし続けるのだろう。