バリ山行

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
3 / 4

バリ島で生まれた私:心の旅

しおりを挟む
バリ島で生まれた私:心の旅

バリ島への旅が始まった時、私は期待と同時に大きな不安を抱えていた。異国の地、言葉も文化も全く異なる場所で一人旅をするということに、内心では圧倒されていたのだ。空港に降り立った瞬間、目の前に広がる見知らぬ風景や人々のざわめきが私の胸を締め付けた。胸の奥に広がる不安感が、周囲の明るさや笑顔をかき消してしまうかのようだった。

「本当にこの旅はうまくいくのだろうか…?」

その疑念が心に巣食い、旅の序盤はどこか浮ついたまま過ごしていた。道端で出会う人々の親切にも、どこか警戒心を解けず、彼らの笑顔が偽物のように感じられることすらあった。それでも進むしかない、と思いながら、山道を一人でバイクで走り抜ける日々が続いた。

そんな時、村の祭りに誘われたのだ。初めは、その申し出すらも本当に信じていいのかと疑っていた。しかし、その疑いを抱きながらも、どこかで自分を変えるきっかけを求めていたのかもしれない。村へ足を踏み入れた瞬間から、何かが変わり始めた。村の人々の純粋な歓迎、温かい手、そして無邪気な笑顔に触れるたび、私の心の中にあった不安の層が少しずつ剥がれていくのを感じた。

特に、踊りに誘われた時、私の心は一気に揺さぶられた。身体を通して、彼らのリズムに自分を預けることで、心の中の警戒がほどけ、解放されていく感覚を味わった。彼らと同じリズムで動くことで、言葉を超えた繋がりが生まれる瞬間があったのだ。いつの間にか、私は自分が笑っていることに気づき、その時初めて、旅の楽しさを本当の意味で感じ取っていた。

祭りが終わり、夜が更けると、私の心は静かに落ち着きを取り戻していった。けれど、その静けさは、不安から来るものではなく、新たな自分を見つけたことで得られる安堵感だった。長老から差し出された果物を味わいながら、自然と一体になっている感覚が私を包み込んだ。何も急ぐ必要はない。今、この瞬間をただ感じればいい——そのシンプルな真理に辿り着いた気がした。

そして、再び山道を走り抜ける私の中には、最初の旅立ちの時とは全く異なる感情があった。自然と調和し、人々の心の温かさに触れたことで、心が軽くなり、周囲の景色が明るく見えるようになった。夜空に輝く星が、まるで私を祝福しているかのように感じられた。

しかし、そんな感覚も、次の出会いでまた一変することになった。山の高台で、彼女と出会った瞬間、再び私の心は激しく揺れ動いた。彼女の静かな言葉が、私の心の奥底にある迷いや不安を指摘しているようで、胸がぎゅっと締め付けられた。ずっと答えを外の世界に求めていたが、答えは自分の中にある——彼女の言葉に導かれ、私は自分自身と向き合うことを余儀なくされた。

旅の終わりが近づくにつれて、私の心はまた新たな不安に包まれていった。この旅が終わった後、私はまた日常の喧騒に戻るのだろうか? この静けさを失いたくない、という恐れが心に浮かんでいた。だが、彼女の言葉がその不安を軽減してくれた。「答えはここにあるのよ」。胸を叩く彼女の姿が、私にとっての指針となった。

バリ島での旅は、単なる観光ではなく、私の内面を見つめ直す大切な時間だった。不安から始まった旅は、やがて自分自身を見つけ、周囲の自然や人々と調和することで、心の平安を手に入れる旅へと変わった。バイクに乗って帰路に着くとき、心の中には静かな強さがあった。外の世界に答えを求めるのではなく、自分の内側にそれを見つけることができたのだ。

そして、再び日常に戻るとき、私はその強さを胸に抱き続けることができると信じていた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

(完結)私の夫は死にました(全3話)

青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。 私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。 ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・ R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。

夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?

ヘロディア
恋愛
側室の子である主人公は、正室の子である妹に比べ、あまり愛情を受けられなかったまま、高い身分の貴族の男性に嫁がされた。 妹はプライドが高く、自分を見下してばかりだった。 そこで夫を愛することに決めた矢先、夫の浮気現場に立ち会ってしまう。そしてその相手は他ならぬ妹であった…

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

20年かけた恋が実ったって言うけど結局は略奪でしょ?

ヘロディア
恋愛
偶然にも夫が、知らない女性に告白されるのを目撃してしまった主人公。 彼女はショックを受けたが、更に夫がその女性を抱きしめ、その関係性を理解してしまう。 その女性は、20年かけた恋が実った、とまるで物語のヒロインのように言い、訳がわからなくなる主人公。 数日が経ち、夫から今夜は帰れないから先に寝て、とメールが届いて、主人公の不安は確信に変わる。夫を追った先でみたものとは…

処理中です...