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さっちゃんの長靴

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「さっちゃんの長靴」

さっちゃんは8歳、小学2年生。今日は朝から大雨で、学校に行くために履いた長靴がびしょ濡れだった。もう随分前から右足の先がぱかっと裂けていて、水が靴の中にじわじわとしみこんでくる。それでも新しい長靴を買ってもらえず、さっちゃんは今日もこのボロボロの長靴で学校に向かう。

歩くたびに長靴の中で冷たい水がちゃぷちゃぷと音を立てる。通学路はすっかり川のようになり、道路には大きな水たまりがいくつもできている。さっちゃんは傘をしっかり握りしめながら、跳ねながら水たまりを避けて進んだ。だけど、どんなに頑張っても長靴の穴から水が入ってきて、足先が冷たくてたまらなかった。

「お母さん、新しい長靴買ってくれないかな…」さっちゃんは家に帰ると、台所で晩ご飯の準備をしている母に小さな声でつぶやいた。だが、母は疲れた顔でため息をつきながら言った。

「ごめんね、さっちゃん。でも今はお金がないのよ。少し我慢してくれる?」

さっちゃんの家は決して裕福ではなかった。父は仕事で忙しく、帰りも遅い。母はパートを掛け持ちして家計を支えているが、それでも家計はいつもギリギリだった。新しい長靴を買う余裕なんて、どこにもない。

「我慢…するしかないんだね…」さっちゃんはしょんぼりとしながら自分の部屋に戻った。けれど、次の雨の日が来るたびにさっちゃんは困ってしまう。水たまりを避けて歩いても、必ずと言っていいほど長靴の中は濡れてしまい、学校での一日が始まる前から憂鬱な気分になるのだ。

ある日、学校からの帰り道、さっちゃんは近所の商店街を通った。商店街には古びた雑貨屋や八百屋さん、小さな洋品店が並んでいる。その中の一軒、色とりどりの子供向けの長靴が並ぶ靴屋さんの前で、さっちゃんは足を止めた。

「いいなあ、新しい長靴…」さっちゃんはウィンドウ越しに見える、ピンク色の可愛い長靴をじっと見つめた。それはさっちゃんがずっと欲しいと思っていたデザインで、小さなリボンがついていて、きっと雨の日も楽しくなるに違いない。値札を見ると、2000円。さっちゃんにとってはとても高い金額だった。

その夜、さっちゃんはベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。欲しいものが目の前にあるのに手が届かないもどかしさと、どうにかしてお金を手に入れられないかという思いが交錯していた。さっちゃんはとうとう、決心した。

「よし、私が自分でお金を作るんだ!」

翌日、さっちゃんは家の中を探し回って、使えそうなものを集め始めた。いらなくなったおもちゃや古い絵本、お母さんからもらった使わなくなった小物をまとめて、自分なりの「フリーマーケット」を開くことにしたのだ。学校が終わったら、商店街の隅っこに座り込み、小さな布を敷いて自分の物を並べた。

最初はなかなか人が立ち止まってくれなかったが、少しずつ通りかかった人たちが興味を持ち始めた。さっちゃんは笑顔で「いらっしゃいませ!」と元気よく声をかけ、頑張って説明をした。通りすがりのおばあちゃんや近所の子供たちが、少しずつ物を買ってくれる。その度にさっちゃんのポケットにはコインが増えていった。

「もう少し…あとちょっと!」さっちゃんは精一杯頑張った。土日には朝から夕方までフリーマーケットを続けて、さっちゃんは少しずつ目標額に近づいていった。

そして、ついに目標の2000円に達した日、さっちゃんは早速靴屋さんに向かった。お店の人にお金を渡し、念願のピンク色の長靴を手に入れた。さっちゃんの顔には満面の笑みが浮かび、心は喜びでいっぱいだった。

帰り道、さっちゃんはその新しい長靴を履いてわざと水たまりをバシャバシャと歩いた。水がしみ込むことなく、足元は乾いたままだ。冷たくて不快だったあの感覚はもうどこにもない。新しい長靴のリボンが揺れ、さっちゃんは飛び跳ねながら帰った。

家に着いたさっちゃんは、買ったばかりの長靴を母に見せた。「自分でお金を貯めて買ったんだ!」と誇らしげに言うさっちゃんを見て、母も驚きと喜びで目を丸くした。

「さっちゃん、すごいわね。本当に頑張ったのね。」母はさっちゃんを抱きしめ、その頑張りを心から称えた。

その日から、さっちゃんは雨の日が大好きになった。新しい長靴で水たまりを歩くのが楽しみで仕方がない。今まで雨が嫌いだったけれど、長靴があるだけでこんなにも気分が変わるなんて、さっちゃんは思いもしなかった。

さっちゃんは自分でお金を稼いで手に入れた長靴が、ただの雨具以上のものだと感じていた。それは自分で努力して得た達成感や、自分を支えてくれる人々の優しさが詰まった宝物だった。雨の中を歩きながら、さっちゃんはこれからも小さな挑戦を続けていこうと心に決めた。

そして、新しい長靴で大好きな水たまりを跳ねるさっちゃんの姿は、どこか誇らしげで、雨の日も晴れやかに輝いて見えた。









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