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春秋花壇

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背負える荷物の量

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「背負える荷物の量」

篠田玲子は70歳、駅から10分ほどの距離にある自宅で一人暮らしをしている。玲子にとって「荷物」とは、ただの日常の道具や荷物以上のものを意味していた。彼女は物理的な荷物だけでなく、歳を重ねるにつれて増えた心の「荷物」も感じるようになっていた。子供たちは独立して東京の忙しい生活に追われ、夫は10年前に亡くなった。孤独感と共に、彼女は自分が背負える荷物の量を少しずつ限られてきたと実感していた。

その日、玲子は訪問リハビリの理学療法士、三上悠からの訪問を待っていた。三上は玲子が少しでも健康的に生活できるよう、簡単なリハビリを提案してくれる青年で、玲子にとっての小さな光であった。今日は「荷物」についての話をしながら、玲子が少しでも体を楽にして日常を楽しめるよう、リハビリプランを組む予定だった。

三上が訪れ、リビングに座ると、玲子は少し照れくさそうに切り出した。「三上先生、歳を取ると荷物を背負うのがこんなに大変だなんて、若い頃は考えもしなかったわ。」

三上は微笑みながら、メモ帳を取り出して玲子に向き合った。「分かりますよ。荷物って物理的なものだけじゃなくて、心の中のものも含まれますからね。どうですか、今日はその荷物を少し軽くする練習から始めましょうか。」

玲子はその提案に驚きつつも、少しずつ心を開き、自分の「荷物」について話し始めた。彼女は今まで積み重ねてきた思い出や、失ったもの、残したいものについて、ゆっくりと語り始めたのだ。

話し終えた玲子は、ふっと肩の力が抜けたような気がした。三上はその瞬間を見逃さず、次に具体的なリハビリ動作について提案した。今日は、壁を使って行う簡単な腕立て伏せから始めることになった。

「壁に手をつけて、軽く体を倒しながら腕で支えてみましょう。無理はせず、できる範囲でやってみてください。」

玲子は初めての動作に少し戸惑いながらも、ゆっくりと壁に向かって体を倒した。すると、体が自然に動き、自分がまだ少しずつでも前進できることに気づいた。

リハビリの終わりに、三上が静かに言った。「玲子さん、人が背負える荷物の量は、少しずつ変わっていくものです。でも、重くなったら少し下ろしてみるのも悪くないと思いますよ。」

玲子はその言葉に励まされながら、自分の背負っている荷物が軽くなる日が少しずつ近づいているように感じた。









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