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春秋花壇

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寂しさと自己肯定感

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「寂しさと自己肯定感」

陽子は70歳を迎え、独り暮らしの毎日に少しずつ寂しさが増しているのを感じていた。子どもたちは皆独立し、たまに顔を見せるが、生活はそれぞれ忙しそうで、自分から連絡を取ることも少なくなった。友人たちもそれぞれの家族や健康問題を抱え、会う機会も減っている。陽子は時折、スマートフォンを手に取りSNSを眺めるが、画面越しに見える他人の笑顔は、自分の中の空虚さをさらに際立たせるばかりだった。

「誰かにとって必要な存在である」と感じられない自分。それが陽子を孤独にし、心に重くのしかかっていた。

ある日、陽子はテレビで「自己肯定感を高める方法」という特集を見ていた。その中で、専門家が「自分が誰かに必要とされる存在になるためには、まず自分自身を磨くことが大切です」と言っているのを聞き、ふと自分も何かを変えなければと感じた。自分を変えることで、もしかしたら他人に必要とされる存在になれるかもしれない。そんな希望が湧き上がった。

「自分磨きか…」

陽子は翌日、近所のスポーツジムに足を運んでみることにした。年齢を重ねてから体力は落ち、特別な運動はしてこなかったが、筋トレやヨガなどを少しずつでも始めれば、自分を見つめ直すきっかけになるかもしれないと思ったのだ。ジムの受付で手続きをし、初めてのプログラムに参加してみる。最初はぎこちなかったが、インストラクターや周りの人が励ましてくれる中で、少しずつ自信がつき始めた。

また、週末には地域のボランティア活動に参加してみることにした。公園の清掃や、老人ホームでの読み聞かせなど、初めてのことばかりだったが、「ありがとう」と言われる度に、胸の中に小さな温もりが生まれていくのを感じた。誰かに必要とされている感覚は、久しく忘れていたもので、陽子の心をほんの少しだけ軽くしてくれた。

こうした活動を続ける中で、陽子は自分を少しずつ変えていった。表情も明るくなり、心にも張りが出てきた。しかし、完全に寂しさが消えたわけではない。時折、夜になって一人になると、「本当に自分はこれでいいのだろうか?」と疑問が浮かんでくる。

ある晩、そんな孤独感に襲われていると、陽子はふと自分のSNSのアカウントを開き、思いのままの気持ちを投稿した。

「寂しい。誰かに必要とされている実感が持てない。自分磨きをしても、何かが変わる気がしない。」

すると、意外にも何人かのフォロワーからコメントが届いた。「陽子さん、最近の活動、素敵だと思いますよ」「応援しています」「その気持ち、私も分かります」——その言葉が少しずつ陽子の胸を温かくしていく。特に、同年代の人からの共感のメッセージには、励まされる思いだった。

次の日、陽子はジムのヨガ教室で、同じくらいの年齢の女性と話をする機会があった。名前は美智子さんで、彼女も陽子と似たような理由でジムに通い始めたという。お互いの気持ちを分かち合う中で、陽子は気づいた。自分だけではなく、同じように寂しさや不安を抱えている人がいることに。そして、その寂しさを埋めるために、自分を見つめ直し、何か新しいことに挑戦しようとしている人がいることに。

美智子さんはこう言った。「陽子さん、私たち、何かの役に立つことができたら、それだけで十分だと思いませんか?他人に必要とされるために自分を変えるのも大事だけど、自分自身の心地良さも大事にしましょう。」

陽子はその言葉に、ハッとした。必要とされるために無理をすることもあるが、自分自身が心から納得し、楽しめることが何よりも大切なのではないかと感じたのだ。美智子さんのように、同じ目線で支え合える人がいることのありがたさに気づき、陽子は自然と笑みがこぼれた。

それから陽子は、他人に必要とされるための「努力」だけでなく、自分が自分であるための「喜び」を見つけることに重きを置くようになった。自分を磨くことが他人に役立つことはあるが、何よりも大切なのは、自分が自分を認められるようになることだと気づいたからだ。

孤独感は完全に消えることはないかもしれない。しかし、その孤独さえも包み込みながら、陽子は少しずつ新しい自分を作り上げていった。






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