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春秋花壇

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集団就職

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集団就職

桜井一雄は、75歳の独居老人だ。彼は静かな街角の一軒家に一人で暮らしている。子どもたちはすでに成人し、それぞれの生活を持っているが、彼との交流は年に数回、電話でのやり取りにとどまる。静寂な日々の中で、一雄は過去を振り返ることが多くなった。

彼の若かりし日々は、忘れられた時代の中に埋もれている。昭和の初め、まだ戦後の荒れ果てた日本にあって、集団就職という言葉が生まれた頃、一雄もまたその波に乗って、地方の小さな町から東京へと向かった。彼が働き始めたのは、まだ蒸気機関車が走るような時代、工場での厳しい日々が待っていた。

「上京してからが、本当の勝負だぞ。」と、父に言われて家を出た一雄は、まるで戦争を終えたばかりのような日本の復興に自分も貢献したいという思いを胸に抱いていた。

あの日、一雄が乗ったのは、集団就職のために準備された専用の列車だった。地方から東京への長い旅路、窓から見える景色は次第に変わり、都会の景色が彼を迎える。その時、一雄はまだ16歳だったが、心の中では大人にならなければならないという思いが強くあった。

「これからは俺の力で生きていくんだ。」と、決意を固めた。

工場では、同じような経歴を持つ若者たちが集まり、汗水を流して働いた。最初は慣れない作業に戸惑うことも多かったが、次第に体が覚え、手が覚え、周囲の仲間たちと一緒に進んでいった。最初の給与を手にした時の喜びと、これから自分が築く未来に対する期待で胸がいっぱいになったことを、一雄は今でも鮮明に覚えている。

だが、そんな幸せも長くは続かなかった。経済の波がやってきた。高度成長が始まり、企業は次々に新しい技術に切り替えていった。古い工場は縮小し、若い労働者たちは次々にリストラされていった。一雄もその波に巻き込まれ、再び職を失うことになった。

「どうしてこんなことに…」何度もその日を思い返すことがあった。しかし、その後も一雄は諦めることなく、仕事を探し続けた。次の仕事を見つけ、また働き、そして生活を繰り返していった。

それから数十年が経ち、社会は変わり続けた。経済のグローバル化が進み、情報技術が発展し、仕事のスタイルも大きく変わっていった。しかし、一雄の心には常に一つの思いがあった。それは、「何かをしなくてはならない」という強い責任感だ。

そんな一雄が今、75歳を迎えた現在も、一人で家にこもっているわけではない。彼はあるボランティア活動に参加している。それは、地元の若者たちに、集団就職の時代の話を聞かせるという活動だった。時折、その活動に参加している彼は、若者たちに言うのだ。

「昔は、仕事があるかどうか、それが一番大事なことだった。今とは違う時代だったけれど、夢を持って働くことは、今でも変わらない。」

若者たちは、彼の話を興味深く聞きながらも、彼の目に映る「過去の時代」と「現在」を比較していた。集団就職時代は、ある意味で「保証された未来」があったようにも思える。しかし、今はその保証がなく、若者たちは不安を感じていた。

一雄が語る言葉は、彼自身の苦しい経験から生まれたものだ。だが、その言葉は、今の若者たちには少し懐かしさを感じさせるものだった。彼らは、時代の流れを感じるとともに、集団就職時代にあった「絆」を心の中で求めるようになった。

一雄はある日の午後、家に帰る途中、ふと立ち止まった。昔、工場で働いていたころに見た風景が、今でも目の前に浮かんでくる。それは、寂れた街角に立つ古い建物や、忙しそうに歩く人々の姿だった。あの時の自分が今ここにいることを、深く感じる瞬間だった。

家に帰り、静かな部屋で一息つくと、一雄は窓の外を眺めた。夕日が沈む空に、どこか懐かしいオレンジ色の光が差し込んでいる。その光を浴びていると、昔の仲間たちがどこかで元気にしているような気がして、心が少しだけ温かくなった。

「今、ここで生きていること、それが一番大切なんだ。」一雄は自分に言い聞かせるように呟いた。

集団就職という言葉は、彼にとってただの思い出ではない。そこには、多くの苦労と試練があったからこそ、今の自分があるのだ。どんな時代になっても、働くことや人とのつながりが、どれほど大きな意味を持つのかを、今もなお彼は実感していた。









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