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仙川のおむすび

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「仙川のおむすび」

東京・仙川駅の近くにある小さなお店「おむすび てしま」。ここは、地元の人々にとって、まるで家族のように温かな存在だった。その理由は、お店を営む81歳のおばあちゃん、手島洋子(てしま ようこ)の存在にある。

洋子は50年以上も、この場所でおむすびを握り続けてきた。彼女が作るおむすびは、決して特別な具材を使っているわけではない。しかし、その味には何とも言えない温かみがあり、一度食べると忘れられない。お米の一粒一粒がふっくらと立ち、絶妙な塩加減が米の甘みを引き立てる。シンプルでありながら、心に響く味わいだ。

第1章 はじまりの日
洋子が「おむすび てしま」を開いたのは、今から50年以上前、30代の頃だった。若い頃、彼女は家庭を守りながらも、手先の器用さを活かして何かできないかと考えていた。幼い頃、祖母から教わったおむすびの作り方を思い出し、「自分も誰かに美味しいおむすびを届けたい」という願いから、地元に小さなお店を開いた。

最初は小さな露店から始めたが、そのおむすびはすぐに評判となり、駅前の近くに店舗を構えるようになった。特別な技術があるわけではなかったが、彼女が心を込めて作るおむすびには、家族や地元の人々の心を温める力があった。

「食べる人が元気になるおむすびを作りたいんです」

洋子はそう言って、朝早くから米を研ぎ、おむすびを握り始めた。具材はシンプルで、定番の梅や鮭、おかかなど。特別なことをするわけではない。ただ、丁寧に心を込めて握る。それだけが彼女の信念だった。

第2章 変わらない味、続ける力
今では81歳になった洋子だが、毎朝早く起きて仕込みをする生活は変わらない。1日400個以上のおむすびを作ることもあり、その忙しさに一人で向き合っている。手首や肩に痛みを感じることもあるが、それでもおむすびを握り続ける理由が彼女にはあった。

常連客の顔が思い浮かぶのだ。長年通い続けてくれる人々、忙しい日常の中でほんの一瞬、彼女のおむすびを手に取り、笑顔を見せてくれる人たち。その笑顔が、洋子にとって何よりも大きな力となっていた。

ある日、常連客の一人である30代の男性が店に訪れた。彼は小学生の頃から「てしま」のおむすびを食べ続けてきた。子どもの頃、忙しい両親に代わり、祖母がこの店に連れてきてくれた思い出が今でも鮮明に残っている。いつも、店頭に立つ洋子が優しく話しかけてくれたことが心に残っていた。

「おばあちゃん、いつもありがとうございます。ここのおむすびを食べると、子どもの頃の思い出がよみがえるんです」

そう言って、彼はおむすびをひとつ口に運んだ。シンプルなおむすびに込められた洋子の愛情が、彼の心をじんわりと温かく包み込んだ。

「これを食べると、何だか元気が出るんです。おばあちゃんの作るおむすび、やっぱり最高ですね」

洋子は微笑みながら、少し照れくさそうに答えた。「そんなことないよ、ただ握ってるだけさ。でも、そう言ってもらえると嬉しいね」

この瞬間が、洋子にとっての宝物だった。お金や名誉ではない。彼女が毎日握るおむすびが、誰かの心を少しでも豊かにし、元気を与えられること。それが彼女の人生の喜びだった。

第3章 新しい風
「おむすび てしま」は、駅前という立地もあり、新しいお客さんが訪れることも多い。特に、SNSで話題になり始めてからは、遠方からも訪れる人が増えていた。その日も、若いカップルが店の前で足を止め、店内に入ってきた。

「ここが、噂のおむすび屋さんか。81歳のおばあちゃんが握ってるってすごいよね」

彼らはメニューを見ながら、シンプルなおむすびに驚いていた。「こんなにシンプルなのに、みんな絶賛してるって、どんな味なんだろう?」

二人は梅と鮭のおむすびを頼み、少し緊張しながら一口食べてみた。

「えっ、これすごい!本当に美味しい!お米の甘さと塩のバランスが絶妙だね」

彼らは驚きと共に、おむすびの味を噛みしめていた。シンプルな具材とお米が、こんなに深い味わいを持つことに感動していたのだ。二人は、すぐにSNSに写真を投稿し、その感動をシェアした。

「本当に、ここに来てよかった。なんか心が温まるね」

彼らの言葉に、洋子はまた静かに微笑んだ。新しいお客さんにも、自分のおむすびが届いたことが嬉しかった。

第4章 続いていく物語
洋子はこれからもおむすびを握り続けるだろう。毎日400個以上のおむすびを作ることは、決して楽なことではない。しかし、それが彼女の生きがいであり、日々の喜びでもある。

彼女の作るおむすびには、単なる食べ物以上のものが詰まっている。それは、長年の経験と愛情、そして食べる人への思いやりが込められた、まさに「人の手から心に届けられる贈り物」だ。

「おむすび てしま」は、これからも変わらない。洋子の手で握られたおむすびは、シンプルながらも心に残る、あったかすぎる一品として、地元の人々や訪れるお客さんを癒し続けるだろう。

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