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春秋花壇

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暴力の向こう側

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「暴力の向こう側」

静かな住宅街の一角、古びたアパートの一室で、近所の住民たちはいつも挨拶を交わしていた。70歳を過ぎたアキラ婆さんは、そんな一人暮らしの住民の一人だった。彼女はどこか寂しげで、しかし穏やかな笑みを浮かべながら、毎日を淡々と過ごしていた。

ある日、街に不穏な噂が流れた。「老人を襲う連中が出没している」というニュースが近所の住民の間で広がった。テレビでも「一人暮らしの高齢者がターゲットにされた」と大々的に報じられ、街の雰囲気が徐々に変わり始めた。

アキラ婆さんは普段通り、近くの商店街に出かける準備をしていた。足取りはゆっくりだが、買い物袋を手にした彼女の姿はどこか毅然としていた。

「今日もいい天気だねえ」と、彼女は道端で咲く小さな花に目をやり、微笑んだ。しかし、その後ろから、不意に現れた若者たちが彼女の家に目をつけていたことを、アキラ婆さんは知らなかった。

その夜、アキラ婆さんの静かな部屋に、鈍い音が響いた。バールを手にした二人の若者が、玄関のドアを強引にこじ開けたのだ。部屋の中に侵入した彼らは、無防備なアキラ婆さんを力任せに殴りつけた。アキラ婆さんの叫び声は、静寂に包まれた夜に吸い込まれていった。

警察が駆けつけた時、犯人たちはすでに逃走していた。部屋には散乱した家具と、動かないアキラ婆さんが横たわっていた。彼女の生気のない顔が、事件の残虐さを物語っていた。

翌日、街の人々はそのニュースを耳にして言葉を失った。アキラ婆さんが襲われたことは、近所中に広がり、誰もが恐怖と悲しみに包まれた。新聞やテレビは連日「高齢者狙いの連続事件」として報道し、世間はますます過敏になった。

事件から数日後、警察は犯人の若者たちを逮捕した。彼らは、実に普通の少年たちだった。特にリーダー格のユウタは、未成年であり、周囲からは「真面目な子」として知られていた。しかし、彼らはあるグループに騙され、老人を襲うように仕向けられていたという。

ニュース番組では、コメンテーターが口々に「彼らもまた被害者だ」と擁護の声を上げていた。

「若者たちは騙され、脅されていた。彼らは本当にこの事件の加害者なのか?」という論調が主流となり、テレビでは同情的な報道が続いた。しかし、近所に住む僕は、それをどうしても受け入れられなかった。

「騙されたって言っても、バールでお婆さんを殴るなんて…どうしてそんなことができるんだ?」

僕の頭の中で、アキラ婆さんの優しい笑顔がよみがえった。彼女はただ静かに暮らしていただけだ。誰にも迷惑をかけず、いつも周囲に穏やかな言葉をかけていた。その彼女が、なぜこんな酷い目に遭わなければならなかったのか。ユウタたちが騙されていたというのは事実かもしれない。だが、それが彼らの行動を正当化できる理由にはならない。

僕は、アキラ婆さんの家の前を通りかかると、自然と足を止めてしまった。今は誰も住んでいないその家の窓から、薄暗い部屋が見える。そこに立ちすくんだ僕の心に、怒りと無力感が交錯した。

「彼らは騙された被害者なんです」と擁護する声がいくらあろうとも、僕の中でそれを受け入れることはできなかった。誰が命じたにせよ、手にしたバールを振り下ろす瞬間、そこには確かに自分の意思があったはずだ。どれほどの理由があろうと、暴力で他者の命を奪うことを正当化できるものなど存在しない。

僕は深く息をつき、空を見上げた。青空は、どこまでも広がっている。だが、アキラ婆さんの穏やかな日常は、もう二度と戻ってこない。ユウタたちの未来も、彼らが選んだ道によって一変してしまっただろう。だが、それでも僕は、彼らを擁護することができなかった。

暴力を振るう者たちに対して、被害者として同情することは確かに必要な側面もあるかもしれない。しかし、実際に行動を起こした時点で、その行為に対する責任は免れない。特に、弱者を襲うような卑劣な行動に対しては、どれほどの理由があろうとも、許されるものではない。

アキラ婆さんのような人々が、安心して暮らせる社会を守るために、僕たちができることは何か。暴力に対する許容は、その一線をどこで引くべきか。僕は、その問いに向き合いながら、立ち尽くしていた。
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